五街道雲助の「もう半分」後半2019/07/08 07:24

 ここまで来たんだ、バラした方がいいな、出刃包丁を仕込んで追いかけ、大 川端で追いつく。 ちょっとばかり、お前に話がある、金はあったぜ、手前の 言う金とは、これのことか(と、出刃包丁を突き出す)。 「人殺しーーッ!」  「ギャアー!」 しれたことよ。 ボォーーーン。 金の工面に差し支え、難 儀なところに、思いも寄らず、耳を揃えて五十両、忘れて行った、そっちの誤 り、一度手にするからにはよ、けえさねえのが、俺の性分。 金ばかりじゃあ、 後の妨げ、気の毒だが、命ももらっておく。 成仏しやがれえ! と、死骸は 大川へ、ドボーーン。

 本所相生町の裏に居酒屋を開くと、客がおしかけて繁昌、若いもん五、六人、 板前が二人、奥に女中が二人、夫婦は店に出ず、浅草の観音様など物見遊山に も行けるようになった。 その内に女房が身ごもって、産気づく。

 産まれたかい。 男の赤さんで。 俺に見せてくれ。 どうぞ。 痩せて、 色の浅黒い、頬骨が出て、目のギョロリとした赤ん坊が、黄色い歯を二、三本 のぞかせ、ニヤリと笑った。 ちょいと、私にも見せておくれ、どっちに似て いるんだろうね。 ギャアー! 女房が気を失って倒れ、そのまま亡くなる。  因縁は恐ろしい、祟(たた)って来るに違いない。

口入屋に乳母を頼むと、明くる朝、お暇(いとま)を頂きたい。 口入屋に 代りを頼むと、明くる朝、お暇を頂きたい。 口入屋に乗り込む。 給金を倍 にした、太っちょの乳母が来たが、明くる朝、お暇を頂きたい。 辛抱して乳 を、と頼むと、あの赤さん、夜中に立ち上がるんです、行灯の油を飲むんでご ざいます、本当の話で。 小遣いをやるから、もう一晩だけいてもらいたい。 隣座敷で、様子を見ているから。

四つ(午後十時見当)、九つ(真夜中)、変りはない。 八つ(午前二時)丑 三つ時、回向院の鐘がボォーーーンと鳴ると、赤ん坊が目を明けて、むっくり と起き、乳母の寝息を確かめて、湯呑を取り、行灯の油差しから油をさすと、 両手でさも旨そうにゴクリゴクリと、飲み始めた。 爺イ、化けたな! ハハ ハ、もう、半分!