『福澤諭吉書簡集』〔昔、書いた福沢77〕2019/07/18 07:10

               『福澤諭吉書簡集』

        等々力短信 第907号 2001(平成13).9.25.

 なぜ短信を始めたか。 26年前の「広尾短信」創刊号に「漱石、福沢を引 合いに出すまでもなく、昔の人は実によく手紙を書いた。 今来るのはDMば かり、ハガキでどれだけコミュニケーションができるか実験のつもり」とある。  漱石や福沢諭吉の書簡の面白さを知り、一つには手紙の楽しみを復活できない かと考えたのだった。

 福沢諭吉没後100年を記念して、慶應義塾編『福澤諭吉書簡集』(岩波書店) 全9巻が刊行中である。 今年の1月23日の第1巻(安政4年~明治9年) に始まり、3月の第2巻(明治10年~13年6月)、5月の第3巻(明治13 年7月~16年8月)と続き、現在、8月の第4巻(明治16年9月~18年 12月)まで出ている。 全9巻で、全書簡数2千5百、昭和38年の『福澤 諭吉全集』21巻別冊1巻収録以後の新出書簡約4百、宛名人6百人は近代日 本形成に参画した巨人たちが多く、福沢諭吉という偉大な個性が幕末明治の激 動の日々から報告するレポートは、近代日本研究にとって、まさに第一級の歴 史資料である。 また、福沢の伝記的資料としても、その見方や感じ方、ナマ の人物像を伝えるものとしても、興味が尽きない。

 実際に『福澤諭吉書簡集』を手にしてみると、『全集』刊行後の福沢研究のい ろいろな成果を取り入れて、各書簡の「注」では、その手紙の大意をまず掲げ、 発信の経緯、諸事情、関係人物の経歴など、周到な解説がなされている。 巻 末の補注【ひと】【こと】という、重要な人物と事柄についての事典的解説も便 利で、各巻担当編集責任者による詳細な「解題」と合わせて読むと、福沢理解 がかなり進んだような気分になる。

 嬉しいことがあった。 「等々力短信」755号「奥沢の福沢」756号「坊 主に説教」に書いた明治18年10月26日付大谷光尊宛書簡が、『福澤諭吉書 簡集』第4巻に収録されたのである(書簡番号*992、*印は新発見書簡)。  長くその学恩を感じてきた福沢研究の皆様に、ちょっぴりお返しできたような 気がする。 5年前の発見当時、この書簡が代筆によるものであることがわか ったが、それが福沢書簡に若干ある代筆者達の筆跡ではなく、誰が書いたのか わからなかった。 その後の研究で、別の書簡に付属の書類と同一筆跡である ことに気付いた方がいて、門下生で弁護士の元田肇の筆跡と推測されるに至っ たという。 この書簡の「注」には「明蓮寺問題が法律問題に発展する可能性 を感じて元田に代筆を依頼したものか」とある。

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