鈴々舎馬るこの「糖質制限初天神」2019/07/06 07:06

 馬るこ、クリーム色の羽織、空色の着物、体重が三桁になった、37歳、干支 はブタ、と。 馬風に入門したら、どんどん食べろという方針で、30キロ太っ た。 店屋物を取るのに、蕎麦でも頼みたいのに、師匠が喜ぶから、かつ丼の 大盛、よろしいでしょうかと言うと。 おかみさんがトップリーダーで、カロ リーが高いから、親子丼にしなさい、と。 師匠は、テーブル満載が好き、ワ ーーッと取る。 高級焼肉屋へ行っても、強迫観念があるから、いろいろな種 類を一人二人前ずつ頼む。 皆そんなには食べられないから、一番下の人間が 全て食う。 一人前2500円の高級焼肉も、砂の味になる。 経験、習慣は抜 けないので、検診の数値は真っ赤、何か一つやめろと言われる。 酒やめた宣 言をしたら、甘い物が断てない。 コンビニのアイスクリームと板チョコの棚、 糖分と糖分のマリアージュ。 一日5個と5枚食べて、お酒に戻した経験があ る。

 ちょっと出かけて来る、初天神、娘の綾香が中学受験だから。 今、糖質制 限しているんだから、行かない方がいいわよ。 財布を置いて行きなさい、ち ょっとジャンプして、小銭も没収。 はい三百円だけ、綾香も連れて行って。  見張りにね、糖質制限しているんだから。 五日もコンニャクばかり、炭水化 物を食べてない、毎朝、甘い物は食べませんと、誓いの言葉を言わされている。

 天神様は学問の神様、優秀なのを妬まれて、九州の大宰府に流された。 詳 しいお爺さんがいる。 ありがたや、賑やかだな。 蕎麦メシだ、神戸の人が 考えた、美味しいんだよ、綾香、そんな目で見るな。 五百円だ、買えない、 三百円しかない。 爆弾焼き、お好み焼きだ、七百円、ライスポールが入って いる、そんな目で見るな。 パパ、おみくじやろう、百円×2、お賽銭に百円 取っておいて。 蒲焼なら、一枚十円×30枚食べられるのに…。 私、大吉、 学問成就。 パパ、加ト吉、中吉。

 綾香、おい、ダンゴ屋がある、珍しいな。 パパはいいパパだよな。 麻雀、 ゴルフはしない、残業しないで家に帰って来る。 いいパパだから、ご褒美に ダンゴ1本いいだろう。 ダンゴは、糖質の塊よ、アンコはカロリーが高い。  蜜の方にするから。 糖質制限しているんでしょ。 五日間コンニャクばかり、 ダンゴが食べたいよ(と泣く)。 見ないで下さい。 18で上京、三流大学の 落研に入って、女の先輩が稽古をつけてやるというんで、カラオケに行って、 ゴチョゴチョやって、それが今の女房、小さな印刷会社に入って、ずっと一生 懸命働いて来た。 この私のたった一つの楽しみが、炭水化物。 買ってやれ よ! あなたが生きてきたのは、太ったお父さんのおかげだ。 ママに内緒に してやるから、ダンゴ一本買っていいよ。 ヘッヘッヘ、おい、ダンゴ屋、蜜 のダンゴ一本くれ。 百五十円です。 事情があって、百円しか持ってない。  電子マネーとか、ないんですか。 お財布ケータイがある(?)。 その汚い甕、 何が入っている? 蜜が入ってます。 これで何本分? 200本分。 200本、 三万円か。 蜜、たっぷりつけろ。 全身の脂肪細胞が喜んでいる。

 パパ、ダンゴは一本しかくれないからね。 馬鹿ね、あんた。 奥さん、何 をヘラヘラ笑っているんです? 昔から言うじゃありませんか、他人の不幸は 蜜の味って。

五街道雲助の「もう半分」前半2019/07/07 07:18

 今晩のお掃除役でございます。 怪談噺は彦六師匠がやっていた。 引き抜 きと言って、紋付きから小弁慶格子の単衣ものに替ったり、いろいろと趣向を こらす。 私はやらない、お金がかかる。 怪談噺もどき、怪談噺のようなも の、なのかな。 本所林町の粗末な煮売り酒屋、ちょっとした小上りがあって、 一杯八文で売ろうという。 今夜はやけに蒸しやがる、降り出して来やがった ぜ。 おっかあ、雨だぜ、客も来ねえから、こっちに上がって一杯やんな。

 六十三、四の爺さん、痩せて色の浅黒い、頬骨が出て、目のギョロリとした、 黄色い歯を二、三本のぞかせ、つぎはぎだらけの着物を着て、まだ、よろしゅ うございますか、と。 とっつあんかい、しょうがないな。 半分、頂きたい。  ああ、旨い。 この世に極楽があるとすれば、この時ばかり。 もう半分、頂 きたい。 意地が汚いんでございましょうな、半分ずつ、数頂くと、たんと飲 んだ気がする。 こちらのお酒は下りで、おいしゅうございますな。 いつも 同じだ。 もう半分、お願いします。 今日は、荷がないんだな、休みかい。  お店のある方は、幸せで。 もう半分、頂きたい。 賄いの冬瓜を煮たの、半 分どうだ。 これは、よく煮てありますな、こうして煮て頂くと、商売冥利で。  勘定はいつもの通りでよろしいんで。 もう半分、頂きたい。 お鳥目はここ に置いておきます。 この暑さ、酒の力がないと寝ることもできない。 また、 お出でなさい。

 とっつあん、包みを忘れて行った。 汚ねえ包みだなあ、やけに重いぞ、金 が入ってる。 五十両じゃないか、よくせんのことだ、届けてやろう。 お前 さん、いつも何て言っているんだい、忘れて行った方がいけないって。 そっ ちへ入れておけ、箪笥の奥に放り込んでおけ、家探しされてもいけない。

 すみません、包みがなかったでしょうか。 そんなものはなかったな。 大 事の金で、不審番にお訴えすると、この店の名前も出さなければならない。 耳 を揃えて五十両。 手前エ、俺の家を強請りに来たのかい。 両国の市で仕入 れた亀戸大根や小松菜を商って、四十文、五十文の稼ぎなんだろう。 はなか らお話しなければなりません、私は深川八幡の前で青物問屋をしていましたが、 後引き上戸で身を持ち崩し、去年の暮、女房が病みついた。 女房の連れ子で 二十一になる娘が、私がなんとかする、吉原という所へ売ってもらいたい、と。  仲之町の朝日丸屋で百両の値がつき、諸々引きで五十両出してくれた。 あれ がないと、娘に合わせる顔がない。 もう一度、見て頂けないか。 そんな大 事な金、なぜ体から離した。 もう飲まないと約束をして、飲んだ私が悪いの でございます。

五街道雲助の「もう半分」後半2019/07/08 07:24

 ここまで来たんだ、バラした方がいいな、出刃包丁を仕込んで追いかけ、大 川端で追いつく。 ちょっとばかり、お前に話がある、金はあったぜ、手前の 言う金とは、これのことか(と、出刃包丁を突き出す)。 「人殺しーーッ!」  「ギャアー!」 しれたことよ。 ボォーーーン。 金の工面に差し支え、難 儀なところに、思いも寄らず、耳を揃えて五十両、忘れて行った、そっちの誤 り、一度手にするからにはよ、けえさねえのが、俺の性分。 金ばかりじゃあ、 後の妨げ、気の毒だが、命ももらっておく。 成仏しやがれえ! と、死骸は 大川へ、ドボーーン。

 本所相生町の裏に居酒屋を開くと、客がおしかけて繁昌、若いもん五、六人、 板前が二人、奥に女中が二人、夫婦は店に出ず、浅草の観音様など物見遊山に も行けるようになった。 その内に女房が身ごもって、産気づく。

 産まれたかい。 男の赤さんで。 俺に見せてくれ。 どうぞ。 痩せて、 色の浅黒い、頬骨が出て、目のギョロリとした赤ん坊が、黄色い歯を二、三本 のぞかせ、ニヤリと笑った。 ちょいと、私にも見せておくれ、どっちに似て いるんだろうね。 ギャアー! 女房が気を失って倒れ、そのまま亡くなる。  因縁は恐ろしい、祟(たた)って来るに違いない。

口入屋に乳母を頼むと、明くる朝、お暇(いとま)を頂きたい。 口入屋に 代りを頼むと、明くる朝、お暇を頂きたい。 口入屋に乗り込む。 給金を倍 にした、太っちょの乳母が来たが、明くる朝、お暇を頂きたい。 辛抱して乳 を、と頼むと、あの赤さん、夜中に立ち上がるんです、行灯の油を飲むんでご ざいます、本当の話で。 小遣いをやるから、もう一晩だけいてもらいたい。 隣座敷で、様子を見ているから。

四つ(午後十時見当)、九つ(真夜中)、変りはない。 八つ(午前二時)丑 三つ時、回向院の鐘がボォーーーンと鳴ると、赤ん坊が目を明けて、むっくり と起き、乳母の寝息を確かめて、湯呑を取り、行灯の油差しから油をさすと、 両手でさも旨そうにゴクリゴクリと、飲み始めた。 爺イ、化けたな! ハハ ハ、もう、半分!

今年も入谷朝顔市に行く2019/07/09 07:09

 7月6日は、入谷鬼子母神の朝顔市に行った。 今年の初日は土曜日になっ て、混雑が予想されたので、早目に出かける。 早朝の雨は上がっていたが、 傘を持って行く。 毎年通って、もう40年以上になろうか、78歳になって、 先週の初めは少し足が痛かったりしたので、今年も出かけられたのが、有難い という気がした。 境内販売の行灯づくりの行灯が、今年は竹でなく、プラス チックだったのは、残念だった。

 先月の「等々力短信」に「猫額庭日乗」を書いたら、近来稀な反響があった。  「老夫婦と庭に住みつく雨蛙、ゆっくりと回転する暮し振りがほのぼのと伝わ ってくる」とか、「登ってきた景色を懐かしく眺めながら、ご夫婦仲良くゆった りと下山している、という様子が目に浮かぶような、ほのぼのとしたものを感 じました。」などという感想が、その代表的なものだった。

 亡くられた志木の高校の先生の奥様からは、根岸在住の卒業生から毎年一鉢 頂くのだけれど、良くて1日か2日おきに2~3輪、724という数は驚異的で す。 やっぱり水をやるだけでは、駄目なのでしょうか。 ちなみに、センセ イは農芸の教師だったというのに、何のアドバイスもくれませんでした、とあ って、吹き出した。

 さっそく、朝顔を育てていた父が、いつも言っていたことを返信した。 花 が咲いたら、種をつくらせずに、すぐに取ること。 葉が萎れるくらいカラカ ラに乾かして、夕方一回水をやること。 すると、朝顔は子孫を残そうとして、 大輪の花を咲かせる、と。

  「日比谷公園名物 超大輪朝顔展」が、7月28日から8月3日まで開催され るというチラシを送って下さった方もいた。 変化朝顔展示会も同時開催、明 治40(1907)年創設の東京朝顔研究会の主催、午前8時から11時30分が鑑 賞時間だそうだ。

小尾ゼミOB会で、会津藩、仙台藩の話2019/07/10 07:16

 6月22日の夏至の日、小尾恵一郎ゼミのOB会が帝国ホテルの東京三田倶楽
部であり、36名が集まった。 奥様、小尾芙佐さんは翻訳の校正が忙しくてい
らっしゃらなかったが、87歳でなお、ジョージ・エリオットの『サイラス・マ
ーナー』を翻訳中だそうだ。 『サイラス・マーナー』、題名だけはどこかで聞
いたことがあった、学生時代の英語の授業ではなかったと思うが…。 ジョー
ジ・エリオットは、ジョージだが本名メアリ・アン・クロス(旧姓エバンス)
という女性作家である。

 われわれの5期は5名の参加、それぞれ短いスピーチをした。 染谷さんは、
かつてアメリカに醤油を売り込んでいたので、最近カリフォルニアのサクラメ
ント(ゴールドヒル)で移民150年の式典があった話。 戊辰戦争に敗れた会
津藩の人々が、明治2(1869)年、日本人最初の移民としてこの地に入植した。 
会津のお姫様(?)、おけいの墓があり、早乙女貢に『おけい』(桶屋の娘)と
いう吉川賞候補作品があるそうだ。 プロイセンの武器商人、ヘンリー・シュ
ネルに連れられて入植した会津の人々は「若松コロニー」をつくって、お茶と
絹の生産を目論んだが、二年ほどで夢破れたという。

それを受けて、西村さんが母方の先祖に白虎隊の隊士がいたと話し、城多さ
んは、母方の先祖が会津に連なる仙台藩の重役で、後に学校の開成の創設経営
に関わったと話した。

それぞれに興味深い話だったので、関連の話をブログに書いたことのある私
は翌日、次のようなメールを送ったのだった。

 咸臨丸がサンフランシスコに着いてすぐ、三人水夫が亡くなり、サンマテオ・
カウンティのコルマにある日本人墓地に、水夫源之助、富蔵、火焚(かまたき)
峯吉の墓があるそうです。
東洋文庫オリエント・カフェで、咸臨丸のことなど<小人閑居日記 2019.5.10.>

 会津藩とアメリカの関係では、維新後いじめられた会津が留学生の募集に積
極的に応募したこと、後に東大総長になる山川健次郎や、その妹さき(後に大
山捨松となる)のことを書いたことがあります。
山川健次郎は慶應義塾で学んだか?<小人閑居日記 2013.8.11.>
山川健次郎の妹、さき(大山捨松)の留学<小人閑居日記 2013.8.12.>
大山巌との結婚、その後の活躍<小人閑居日記 2013.8.13.>
山川健次郎(15)、フランス語を学ぶ<小人閑居日記 2013.8.14.>
長州人奥平謙輔の書生になった事情<小人閑居日記 2013.8.15.>
健次郎のアメリカ留学まで<小人閑居日記 2013.8.16.>
山川健次郎がアメリカで学んだこと<小人閑居日記 2013.8.17.>
会津と松平容保(かたもり)<小人閑居日記 2013. 4. 2.>
会津と「奥州仕置」「惣無事令」<小人閑居日記 2017.12.1.>

 城多さんは、仙台藩の重役石田将監の曽孫ということでしたが、ご存知仙台
藩と福沢の関係は深く、江戸留守居役の大童信太夫に横浜の英字新聞を翻訳し
て売ったり、アメリカから本を買って来たりしています。 中津藩最後の殿様
奥平昌邁(まさゆき)は仙台伊達の流れ伊予宇和島の伊達宗城の三男で養子に
来ています。 中津奥平氏も、伊予宇和島の伊達氏も十万石、両都は親戚で、
規模も、県庁を他市にとられた立地条件も似ています。
福沢と仙台藩江戸留守居役・大童信太夫<小人閑居日記 2013. 6.26.>
福沢、大童信太夫の赦免に働く<小人閑居日記 2013. 6.27.>
福沢の大童信太夫評価<小人閑居日記 2013. 6.28.>
ヘボン博士、大童信太夫の痔を手術<小人閑居日記 2013. 6.29.>

 そんなわけで9月にでも、みんなで会って、明治維新の話でもしようかとい
うことになった。