古今亭志ん輔の「唐茄子屋政談」下2019/08/08 07:13

 黙って歩いてて、売れなかったんだ。 トー、トトトトト…。 (いきなり 大声で)トコロテン屋、テン屋! 大きな声だな。 トー、トトト…、人が来 た。 トー、トトト…、また来た。 田圃だから、蛙ぐらいしか聞いていない。  トーナスですよ、トーナス屋でござい! ここは吉原田圃だ。 トーナス、ト ーナス屋でござい! いい女だったな。 初めて行ったのは、仲間の寄合の崩 れだった。 こういう人が好きなんだよ、って言った。 トーナス屋でござい!  裏を返したら、驚いてた。 こっちが駄目になっちゃったよ。 朝起きたら、 女が起きてて、雪だよ、犬っころが喜んでる、雪の日なのに帰るのかい。 流 そうか、寄せ鍋をそういい、二人でつついた。  あら若旦那、舌の先に白滝 がからまったわって。 あれから帰らなくなったんだ。 トーナス屋でござい!  床の間の三味線、弾き始めた。 ♪のびあがり のびあがり 見れども見えぬ  後ろ影 ええ、も、じれったいと 思わず噛み切る 爪楊枝  俺の膝にもた れ掛かって。 トーナス屋でござい!

 誓願寺店(せいがんだな)に入って来た。 品のあるおかみさんが、御鳥目 三文で唐茄子一つ分けてくれ、と。 二つどうぞ、弁当をつかわせてもらうの で。 三つになるという子供が、まんま、まんま、と。 今、唐茄子煮てあげ るから、坊や、待っていて。 みっともないったら、ありゃあしない。 訳が あって、亭主は元侍で小間物の行商に出ているが、送金が途絶えて、二日も何 も食べさせてない。 徳は、弁当を男の子にやり、今日の売り溜めを、叩き付 けるようにして、置いてきた。

 荷が空(から)、みんな売れたのか、飯も食ってないのか。 婆さん、アジを 焼いてやれ。 田原町で転んだら、親切な人がいて、みんな売ってくれたのか。  売り溜めを見せろ。 ない。 他人にやっちまっただと、アジ下ろしておけよ。  こういうわけで、みんなやっちゃった。 提灯に灯を入れろ、一緒に行こう。

 こんばんは。 どなた。 先ほどの八百屋でござんす。 私は隣の糊を売る 婆あで。 家主が因業の国から因業を広めに来たような家主で、店賃をもらっ とこうと、あの売り溜めを取り上げて行った。 おかみさんが、暗くなっても 灯をつけないので、見に行くと、梁(はり)にぶら下がっていた。 下ろして、 様子を見ているところで。 私は、これの叔父で、達磨横丁で三十六軒の家主 をしているが、家主がひどいね。

 徳と叔父さんは家主のところに乗り込み、やかんで家主のやかん頭をバーー ン、十六かん。 竹の野郎、家主の頭に薬を塗っている。 トンガラシでも塗 りゃあ、いいんだ。 奉行所におおそれながらと、家主を訴え出て、徳が青緡 五貫文のご褒美を頂く、唐茄子屋政談という一席で。