大夢 土屋元作〔昔、書いた福沢94〕2019/08/12 07:06

               大夢 土屋元作

      <等々力短信 第900号 2001(平成13)年2月25日>

 「世紀をつらぬく福澤諭吉-没後100年記念-」展へ行かれた方は、前号 に書いた800号書簡を探されたのではないかと思う。 実は、私も探して、 関係の展示を何度も見直した。 会場の出口で、松崎欣一さんにお会いしたら、 「お知らせしなければいけなかったんですが…」、スペースの関係で展示できな かったのだそうだ。

 展覧会の始まる前日だったか、福沢諭吉協会の竹田行之さんからお電話があ り、この展覧会のことを『福沢手帖』に書いてもらえないかという。 ほかに 適任の方は、いくらでもいるだろう。 これにも、私への激励の意味が込めら れているのを感じて、ご好意に応えることにした。 展覧会のくわしいことは、 3月20日発行予定の『福沢手帖』108号を読んでいただくことにして、そ の原稿にあった一人物について書く。

 福沢の「独立自尊」というスローガンは、短信831号「『独立自尊』の起源」 でふれたように、福沢の晩年、意を受けた高弟たちがまとめた『修身要領』(明 治33年2月)の柱になっている。 今回の展覧会は、その「独立自尊」が、 新しい21世紀を生き抜く指針でもありつづけることを、高らかに宣言したも のだといってもよいだろう。 『修身要領』を起草した高弟は誰かといえば、 小幡篤次郎、福沢一太郎、鎌田栄吉、門野幾之進、石河幹明、日原昌造、土屋 元作などである。 その名を知らなかった土屋元作を、原稿で土井と誤記して、 竹田さんに土屋元作について教えて頂く。 『福沢手帖』32号(昭和57年 3月)で野村英一さんが、土橋俊一先生が『三田の遠近』(文化総合出版)で言 及されていて、「馬場さん好みの人物です」と…。

 土屋元作(号大夢1866-1932)は、豊後(今の大分県)日出(ひじ)の生れ、 慶應義塾の出身者ではない。 済美黌で漢学、共立学舎で洋学、さらに攻玉社、 東京専門学校(早稲田大学の前身)に学び、輸出商や役人、新聞記者などをや り、輸出商としてはアメリカに行き、借金を作ったりしている。 明治30年 時事新報に入り、その達意の文章で、福沢に目をかけられるようになった。 入 社2年目の明治32年11月、福沢の日頃の主張に沿って、土屋が「独立主義 の綱領」という一文を書いて福沢に出したところ、たいへん気に入られ、「慶應 義塾社中に示すべき道徳上の主意書」を作るようにという指示が小幡、一太郎、 石河、土屋の四名に出されたという。 『修身要領』と「独立自尊」を考える 時、土屋元作の名前を落すことはできないのだった。