左のポッケにゃ福沢手紙〔昔、書いた福沢104〕2019/08/22 07:24

            左のポッケにゃ福沢手紙

     等々力短信 第939号 2004(平成16)年5月25日

 先月16日、岩波文庫から慶應義塾編『福沢諭吉の手紙』が出た。 昨年完 結した『福澤諭吉書簡集』全九巻の編集委員8名の内5名の方々が、その2,564 通に及ぶ手紙の中から興味深い118通を選び、思い切って読みやすい表記で編 集したものだ。 何といっても文庫だから簡便で、ポケットに入れておいて、 どこででも読むことが出来るのが有難い。 表記のやさしさもあって、あらた めて気づくことが多いのである。

 まず福沢の片仮名が面白い。 「マインドの騒動は今なお止まず」「旧習の惑 溺を一掃して新らしきエレメントを誘導し、民心の改革をいたしたく」「結局我 輩の目的は、我邦のナショナリチを保護するの赤心のみ」「あくまでご勉強の上 ご帰国、我ネーションのデスチニーをご担当成られたく」という有名な明治7 年10月12日付馬場辰猪宛を始め、インポルタンス、スクールマーストル、プ ライウェートビジニス、モラルスタントアルド、ソンデイの夜、スピーチュの 稽古、「ウカウカいたし居り候ては、次第にノーレジを狭くするよう相成るべく、 一年ばかり学問するつもりなり」といった具合である。

 漢詩がすべて読み下し文で表記されているのも、新鮮な気持で福沢の漢詩に 接することが出来た。 時代だったのか、福沢創立の学校だからか、高校で漢 文を習わなかった。 漢詩の平仄(ひょうそく)韻字など、まったくわからない。  福沢は、主に門下生への手紙の中でときどき自作の漢詩を披露し、必ず「ご一 笑下さるべく候」「これもお笑種(ぐさ)」といった文句をつけている。 案外自 信があったのかもしれないが、どうもあまりうまいとは思えない。 しかし正 直な気持が、素直に吐露されているのは確かだ。 一太郎、捨次郎の両息をア メリカ留学に出し、その船中を思って「月色水声夢辺を遶(めぐ)る/起きて窓 外を看れば夜凄然(せいぜん) /烟波万里孤舟の裡(うち)に/二子は今宵眠るや 眠らざるや」。 当然23年前の自身の咸臨丸渡航のことを思い出しただろう。  積ん読の富田正文先生の『福澤諭吉の漢詩35講』(福澤諭吉協会)を見たら、全 漢詩の現代語訳があって、おかげでほかの詩の意味までわかるという余禄があ った。

 『福沢諭吉の手紙』には、名宛人別索引、「こと」と「ことば」の主題索引、 福沢の略年譜が付いていて、便利だ。 「ママヨ浮世は三分(さんぷん)五厘」 という「ことば」は、どの手紙にあるか。 聞いたことのなかった「志摩三商会」 「賛業会社」、そして親類の住む愛知県春日井の「春日井事件」についての手紙 を読んでみた。

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