片仮名力と漢字翻訳語の力〔昔、書いた福沢105〕2019/08/23 08:06

             片仮名力と漢字翻訳語の力

       等々力短信 第945号 2004(平成16)年11月25日

 5月の短信・第939号「左のポッケにゃ福沢手紙」の福沢の片仮名が面白い という話を発展させて、福澤諭吉協会の『福澤手帖』122号に「福沢諭吉の片 仮名力(ぢから)」を書かせてもらった。 その片仮名の多彩な使用法を入口に して、文明開化期の福沢の、平易な文体による日本語表記、新しい文章日本語 の実践が、近代日本への大きな技術的貢献だったとした。 それで福沢は広く 読まれ、近代日本のシナリオライターとなった。 その後、この議論を補強す るようなものを二つ読んだので、紹介しておきたい。

 一つは陳舜臣さんの「六甲随筆」(朝日新聞9月13日夕刊)「片仮名言葉は日 本の財産」で、陳さんは最近の片仮名言葉をなるべく減らそうとする動きが、 過剰になることをおそれる。 片仮名は日本語の大きな特徴であるといい、外 国の人名や地名をいちいち漢字で表現しなければならない中国にくらべると、 片仮名は日本にとってじつに貴重な財産だというのだ。 そういわれてみれば、 『文明論之概略』のスミス、ワット、ペイトル帝、ナポレオン、ビスマルク、 ロンドン、パリ、ワシントンが、斯密、瓦特、彼得帝、拿破侖、俾斯麦、倫敦、 巴黎、華盛頓では、憶えるだけで一大事だ。

 「福沢諭吉の片仮名力」では片仮名に力点をおいたため、福沢が英語の翻訳 に当って、いろいろな漢字を持ってきて、新しい言葉を造語したことには触れ ることができなかった。 丸谷才一さんは『ゴシップ的日本語論』(文藝春秋) 所収の「日本語があぶない」で、次のような重要な指摘をしていた。 「われ われの近代化がアジアで最初に成功したのは、一つには仮名を持っていた、一 つには漢字による訳語を持っていた、この二つによってであった。」「明治時代 の欧化、あるいは日本の近代化は、漢字を使った欧米語の邦訳に負うところが 極めて大きかった。」「近代日本語成立の極めて重要な一要素は、西欧の概念の 漢字による翻訳語であった。」「漢字合成による西欧的概念語ができた。西欧的 物体をあらわす普通名詞、および抽象名詞の訳語ができた。」(丸谷さんの表記 を、現代仮名づかいにした) 先月末、福澤諭吉協会の史蹟見学旅行で摂州三 田(さんだ、パンダと同じアクセントの由)を訪れ、三田城跡の前で福沢が旧 藩主九鬼隆義と親しくなったきっかけをつくったと考えられている川本幸民の 顕彰碑を見た。 川本は日本で最初にビールやマッチや銀板写真機を試作し、 「麦酒」「化学」「蛋白」という翻訳語は川本によるものだと聞いて来た。

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