柳家小せんの「彌次郎」前半2019/08/29 08:32

 小せん、われわれの商売は嘘八分、本当二分と始めた。 人の為につく嘘も ある、お釈迦様も言った、「方便」という宝になった。 お前さん、鼻の頭を見 せなかったね。 旅に出ていまして。 嘘をおつき。 北海道へ行きました。  寒いんだろう。 寒い、風が吹くと痛い。 お酒が凍るんで、お酒をかじりな さい、と勧められる。 「お早う」という言葉も凍るんで、蹴飛ばして歩く。  年寄はそれを拾って目覚ましにする。 鍋の上に、二つか三つ乗せておくと、 「お早う、お早う、お早う」。 小便も凍る、腰に小槌を下げていて、カチン、 シャー、カチン、シャー、とやる。 手元が狂って、急所を打って、目を回し た。 火事が凍る。 三階建ての家が焼け、ジャンジャン水をかけると、下の 方から「カチャカチャカチャ」と凍る。 いい塩梅に、凍りましたね、と帰っ て来る。 明け方、裏で人声がする、木こりが火事をのこぎりで切って、牛の 背中に乗せて、海に捨てに行く。 そのうちに牛の背中がボーボー燃え出す。  水をかけても、焼け牛に水。 牛がモーいやだ、と言う。

 武者修業の旅に出て、南部の恐山へ行ったら、この山は越せません、山賊や 獣が出る、明るい内に越した方がいい、と言われた。 道がだんだん狭くなっ てきて、滑る。 だんだん暗くなってきた。 前方の平地に、山賊の親分がい て、坊主頭にちょんまげ、鉈豆(なたまめ)煙管でパクーリパクーリと喫って いる。 卒爾ながら、火をお貸しくだされ。 六尺の大男が、「お若えの、お待 ちなさい」。 身共ことで、ござんすかい、一人二人の履物よな、しめて三足(山 賊)。 チャン、チャン、チャン、とチャンバラになる(♪元禄花見踊り)。 六 尺の大男を投げ飛ばす。 あたりの六尺岩も、ちぎっては投げ、ちぎっては投 げ。