大江健三郎さんの“個”を見つける三つ〔昔、書いた福沢140〕2019/10/27 07:58

<小人閑居日記 2019.10.13.>の「始造」〔昔、書いた福沢125〕に書いた、 大江健三郎さんの“個”を見つける三つについて、何回か書いていたので、日 記の日付は前後するけれど、二回に分けて、それを紹介する。

    大江健三郎さんの“個”を見つける三つ<小人閑居日記 2002.8.16.>

 <小人閑居日記>を始めた頃の12月3日、「始造」という題で、久米宏の「ニ ュース・ステーション」に大江健三郎さんが出て、各人が個を見つけるための 三つという話をしたことを書いた。 大江健三郎さんは、1.さと(悟)る 2. 始造する 3.capability を挙げ、このうち「始造」は福沢諭吉の作った言 葉だと言った。 最近、その話が大江さんのどの本に出てくるのかと、ある方 に訊かれて、ちょっと調べてみた。

 大江さんの『鎖国してはならない』と『言い難き嘆きもて』という二冊の本 が、2001年11月に講談社から刊行されている。 その内の『鎖国しては ならない』に、問題の三つを見つけることが出来た。 だが、それは単純でな く、1.さと(悟)る 2.始造する 3.capability は、それぞれ違う講演 にある言葉だった。

  1.さと(悟)る は、「きみたちにつたえたい言葉」

  2.始造する は、「本当の開国を「始造」する」

  3.capability は、「北京講演二〇〇〇」

 に出てくる。 ざっと見たところでは「各人が個を見つけるための三つとし て」と、まとめて述べている箇所は発見できなかった。 それにしても、大江 健三郎さんの文章は難解で、それも話し言葉である講演草稿なのに、「きみたち につたえたい言葉」は、本当に伝わったのだろうかと、思わずにいられなかっ た。

        難しい時代を開く鍵<小人閑居日記 2002.8.17.>

 大江健三郎さんの『鎖国してはならない』の「本当の開国を「始造」する」 で、大江さんが「始造」という言葉を、丸山眞男さんの岩波新書『「文明論之概 略」を読む』で知ったことがわかる。 大江さんは、この『「文明論之概略」を 読む』が、私たちを日本の近代化の始まりに、そして人間としては福沢諭吉に つないでくれる、という。 冗談のようにいえば、外国人から一万円札に福沢 諭吉の絵がついているのを指して、これはどんな人だ、なぜ夏目漱石の十倍値 打ちがあるんだ、と聞かれたとしたら、どう答えるか?と、続ける。

 明治維新の大変化を、同じ大変化である1945年の敗戦を経験した丸山さ んの目と頭で見直して、福沢が、彼の言葉でいう「外国交際」つまり外交をし っかりやらなければ、日本は外国の権力の支配するところとなる(同時代の中 国のように)から、国家内の主権の確立と、外交の場でのこの国の独立した主 権の確立、その両者をいかに賢明に確立するかを、さしせまった課題として、 ほとんどそのために明治8年の『文明論之概略』は書かれた、という。 丸山 さんは、日本人が維新直後のあの時代に文明論を書くことは、じつに難しい仕 事だったわけだが、福沢諭吉は、それだけにきわめて意義があると考えてそれ をやった。 かれの努力は、まったく新しいものを作る、つまり「始造」とい う方法的自覚においてのものだった、と丸山さんはいう。 丸山さんが福沢の 「始造」という言葉を持ち出したのは、現在の難しい時期にもまた、ここでこ そ、かつてこの国になかった、さらに世界のどこにも実現されていない新しい 構想を作れ、と若い人たちに呼びかけているのだと、大江さんは、このICU 国際基督教大学の学生に向けた講演で語っている。

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