三遊亭歌武蔵の「蒟蒻問答」2019/11/12 07:00

 歌武蔵は、薄茶色の着物と羽織、最近は遅れて来る師匠がいなくなった。 談 志は遅れた。 紙切りの正楽がひどい目に遭って、一人で35分ぐらい切って いた。 池袋だと、お客一人に三枚ずつ切ったりした。 「つなぐ」という。  羽織を放るのが、来た合図。 今はスマホがあるけれど。

 2001年の9月、北海道の留萌に、小朝師匠の落語会で行った。 師匠は電車 で先に行っていて、われわれは飛行機で当日入りだったが、羽田に行くと欠航、 午後は飛べるんじゃないか、電車にするか、飛行機にするか、選べという。 ど ちらがいいか、指をおいて占い、飛行機にしたら、飛んだけれど、ひどい揺れ だった。 留萌は夕焼け、小朝師匠が着いていない。 私が前座で、つなぐ。  せめて25分から30分やって下さい、と。 脇を見ると、係が手で×をつくっ ている。 市民会館のデジタル時計を見ながら、続ける。 袖で、係がまだ手 を縦に伸ばしている。 10分後、小朝師匠登場(歌武蔵は羽織を脱ぐ)。

 その昔、困ったのは、寺の和尚がいなくなること。 次の和尚が流れつくの を待つ。 江戸から流れてきた八五郎、安中で行き倒れになって、蒟蒻屋の六 兵衛親分に助けられる。 遊びが過ぎて、悪い病いを引受け、草津に湯治に行 く途中だった。 すっかり体がよくなって、親分の頼みなら聞くと、寺の坊主 になる。 経なんか読めなくても大丈夫、イロハに節をつければいい、と言わ れて。 一つやっつけましょうか。

 毎日、酒を飲んでいる。 権助、何をやっているんだ? 落葉を集めて、火 をつけようと思って。 こっちへ来い、てえくつだ。 弔いがあれば、穴掘り をしなければならないが、酒の付き合いをしてくれ。 手酌で一杯、寺方では 般若湯といいます。 鰹節は巻紙、玉子は御所車、中に君がまします、アワビ は伏せ鐘、タコは天蓋、形が似ている、ドジョウは踊り子。 鰻を食いに行き たい、芝居も観たいけれど、踊り子鍋でもやるか。 踊り子を買って来い。 こ うだな、えけえ鍋でやるのけ。 銅鑼だ。

 表で、「頼もう」の声がする。 鼠の衣を着た坊主が、拙僧は越前の永平寺、 沙弥托善と申す諸国行脚雲水の僧、禅家の御寺と拝見して問答をと、言う。 大 変だ、問答の坊様が来た。 宗門の決め式で、問答に負けると、唐傘一本背負 わされて追ん出される。

 俺は小坊主だ。 小坊主? 三日水につけてふやけた。 大和尚は留守だ、 二三日帰らないこともあれば、二三年帰らないかもしれない。

 こっちから先に追ん出たらどうだ。 おら、信州の丹波島で炭焼きでもなん でもできる、駆け落ちしないか。 銭がいる、寺の物を売ろう。 よかんべえ、 長い浮世に短い命だ。 前橋の道具屋を呼んで来い。 蒟蒻屋の親分も連れて 来い。 永平寺はこの寺の大本山だ。 大掃除だ。 金目の物を売っ払って、 丹波島へ行こう。 丹波島は、川中島に近い。

 親分、また問答の坊様が来る。 大和尚は留守だって言ったんだろう。 い いよ、問答僧が来たら、俺がやっつける。 俺の前に座らせろ。 酒の支度を しろ。 袈裟は売って、飲んじゃった。 帽子(もうす)は、火事の手伝いに 行って、焦がした。 払子(ほっす)は、馬の尻尾、毎朝ハタキに使っている。  大釜にどんどん湯を沸かせ。 乞食坊主が来たら、長い柄杓で、肥え柄杓でい い、熱湯をかけるんだ。

 蒟蒻屋の六兵衛親分が、大和尚に成り済ます。 問答の僧が何を問いかけて も、答えない。 禅家荒行の内、無言の行中と察して、指で丸い輪を差し出す。  親分は、大きく(巨人軍の)丸ポーズ。 僧が両手のひらを出すと、親分は片 手のひらを出す。 僧が三本指を出せば、親分はアカンベエをする。 問答の 僧は、平身低頭して、また修行して参りますと、去って行った。

 権助が追いかけて行き、僧に、その訳を訊いた。 大和尚の胸中はとお尋ね したところ、大海のごとしとのお答え。 つぎに十万世界はと訊けば、五戒で 保つ、及ばずながら、さらに三尊の弥陀はと問えば、目の下にありとのお答え。  到底及ぶところではございません。 両三年修行して修行して参ります。

 一方、六兵衛親分、あの野郎、お前のところの蒟蒻は、これっぱかりだと手 つきでケチをつけやがる。 俺んところのは、こんなに大きいと言ってやった。  すると十丁でいくらかって値段を聞く、少し高いと思ったが、五百文だってや ったら、しみったれた坊主だよ、三百文に負けろってえから、アカンベエをし てやったんだ。