桂三木助の「天狗裁き」後半2019/11/14 07:06

 こういう時のために、大家がいるんだ。 おしゃべり野郎を帰した、私は口 が堅い、棺桶の中まで持って行く。 私とお前は、大家と店子だ、隠し事をす ることはない。 私は、町役人だぞ。 どうしても話すことができないのか、 はい、結構だ、店を空けてもらおうかい。 出てってくれ。 信用おけない店 子がいては、ほかの奴に示しがつかない。 お奉行所に訴えても、追ん出して やる。

 家主幸兵衛、町役人一同五人組、店子熊五郎、一同揃いおるか。 家主幸兵 衛、店子熊五郎が夢の話をしないとて、店立てを申し付けた由、相違ないか。  そのような下らぬことで、奉行所を煩わすとは、不届き至極、願書は願い下げ だ、熊五郎には罪はない。 熊五郎、その方は、少し待て。

 けして口外しなかったのはあっぱれだ、奉行、褒めてつかわす。 この奉行 には、しゃべれるであろう。 拙者は将軍様のお眼鏡にかなって、奉行を勤め おる。 すまんな、座興じゃ、わかっておる。 退がれ、退がれ! かく人払 いをした、二人っきりだ、誰もおらん、しゃべれるだろう。 それでも、しゃ べらぬか。 拷問じゃ、荒縄で縛って、庭の松の木に吊るせ。

ブランブランしていると、一陣の風に中天高く巻き上げられた。 着いたと ころに、雲突くような身の丈抜群、手に葉団扇を持った大天狗がいた。 ハッ ハッハ、心付いたか、ここは高尾の山中じゃ。 江戸の上空で、不思議な話を 聞いた。 見た夢の話をしないのを、奉行が重き拷問で聞き出そうとしている ではないか、不憫じゃによって、助けてやったのだ。 天狗は人間ではない、 夢の話など聞きたくはないが、どうしてもというなら、聞いてやってもいいぞ。  わっちは、本当に夢なんて見ていないんで。 優しく言っている内に、話すの がよかろうぞ。 天狗を怒らせると、どうなるか、知っておろうな。 この長 い爪で八つに切り裂いて、小枝に吊るし、カラスの餌食になるのだぞ。 大天 狗の長い爪が、熊五郎の首に伸びる。 「助けてえーーッ」

この人は、ずいぶんうなされているねえ。 ちょいと、お前さん、起きなさ いよ、いったい、どんな夢を見たの?