入船亭扇遊の「たちきり」前半2019/11/15 07:02

 扇遊は、黒い羽織に、鼠色の着物。 今日のメンバーと飲んでも駄目だが、 色気、女性がいると盛り上がる(長岡輝子さんがいたりしてもと、と聞いたよ うな気がする)。 自分たちでお座敷遊びをしようということになった、月々5 千円ずつお座敷貯金して、年に一回行けるどうか。 六カ所、神楽坂、葭町、 向島(柳橋)、新橋、赤坂?、浅草?に行った。 終いに祇園に行こうという話 だったが、行けなかった。 昔、お茶屋では時間でいくら、線香で計って、た ちきると、いくらとなる。 碁盤のようなものに線香を立てて、一本1円とか、 1円50銭になる。 それで、田舎から来た女中が、線香を3把持って逃げた。

 若旦那の傍に寄るなと、20銭もらったんです。 1円やるよ、人が寄ってい る、何を話しているんだ。 ご親類の方々です。 誰だ? 横浜や甲府のおじ さん、埼玉のおばさんです。 旦那様が、ウチの金食い息子には堪忍袋の緒が 切れた、処分します、と。 甲府のおじさんが、若旦那を炭焼きにする、する と病気になるが、そのままにする。 横浜のおじさんは、それは手ぬるい、一 緒に海に釣りに出て、舟をひっくり返す、私は泳ぎができるが、あいつは泳げ ないから、魚の餌になる。 埼玉のおばさんは、私が引き取ります、ウチには 暴れる大きな牛がいる、鞭でビシッっとやって、角で横腹を突き殺させる、と。  すると番頭が、若旦那はお金の有難みがわからないのだから、乞食にして、そ れをわからせたらどうかと言った。 皆さん、それがいい、そうしよう、そう しようということになりました。 若旦那、あなたは乞食です。

 番頭、大変なことを言ってくれたね、お前は奉公人だ、親父に万一のことが あれば、この身代は私のものだ。 若旦那、ここに汚い着物、縄の帯がありま す、着替えて下さい。 欠けたお椀と汚い箸も用意しました。 そんなの、い やだよ。 その代りに、ああする、こうするというんなら、お前の好きなよう にするから。 それでは、百日の間、蔵住まいを願います。 三度の食べ物、 お望みのものは何でも、蔵に入れます。 この蔵へ、どうぞ。 ドンと、扉を 閉めた。

 こんなことになったのは、柳橋の料亭で、久(ひさ)の家の初心な芸者小久 を見初め、お互い夢中になって、理(わり)無い仲になった若旦那が、莫大な 店の金を使い込んだからだった。

 午後、若い男が、柳橋よりという手紙を持って来る。 番頭は、封も切らず に、帳場の小抽斗(ひきだし)に入れる。 夕方にも一本、明くる日は三本、 次の日は五本、十日目に戸を開けると、手紙を持った奴がずらーーり。

 百日が経った。 若旦那、お早うございます、その節は大変ご無礼なことを 致しました。 番頭さん、お前さんのしてくれたことを、有難いと思ってます。  礼や詫びは、私の方で言わなければならない。 今日が、その百日か、蔵住ま いもなかなかいいもんだ、もう少しいると、長生きが出来そうな気がする。 お 出まし頂かないと、火が消えたようで。 お父っつあんは、お変りないか。 お 元気です。 柳橋から、毎日手紙が…。 その話は、やめましょう。 聞いて 頂きたい、蔵にお入り頂いた日の2時頃、手紙が届きましたが、私の一存で小 抽斗に仕舞いました、日の暮方、別の若い方が手紙を持って来ました。 毎日 手紙が参りましたが、惜しいことをしました、80日目、手紙がパタッと来なく なりました。 牛を馬に乗り換える、手のひらを反す、あの里の常で。 これ が最後に来た手紙です、これだけでもお読み下さい。 私は読みたくない、番 頭さん、そちらで読んで下さい。 「もはや、この世ではお目にかかれず候、 かしく」。 <釣り針のようなかしくで客を釣り>と申しますな。