入船亭小辰の「一目上がり」2019/12/01 07:48

 月初〔昔、書いた福沢〕シリーズをちょっと休み、福沢流のバランス感覚で、 落語を書かせてもらう。 11月26日は、第617回の落語研究会だった。 寒 い日で、開口一番の入船亭小辰も、お寒い中をお運び下さいまして有難うござ います、と始めた。

「一目上がり」       入船亭 小辰

「駒長」          蜃気楼 龍玉

「掛取り」         柳亭 市馬

         仲入

「将棋の殿様」       三笑亭 夢丸

「火事息子」        五街道 雲助

 小辰、いろんな所で噺をするので、道中、ネタを見つける。 電車ん中で他 人の話を聞く。 子供がママのカルピスが薄い、と話している。 50代のサラ リーマンは、ママの水割が薄い。 女子高生が、「パパがアーー」。 どっちの パパなんだ?

 家に、水質検査のおじさんが来た。 カップに水を入れてくれ、と言い、表 札の芸名と本名を見て、あなたは、これ? これです。 落語家さんですか、 私は落語が好きで。 好きと言っても、どの程度かと思っていると…。 落語 協会ですか? 相当、詳しいな。 大変ですね、談志さんが出てっちゃって。  エッ、いつの話だ。 三平さんも大変ですね、古典落語ができないから。 エ ッ、どっちだ? でも、面白いから。 判った!

 こんちは、隠居いるかい、 八っつあんかい。 まあまあ、お上がり。 ご 馳走様で。 エッ? まんま、お上がりって。 まあまあ、だよ。 仕事が半 ちくになっちまって、隠居さんの顏を日に一ぺん見ないと、通じがつかないも んで。 粗茶だが、飲むか。 隠居の粗茶ですか。 粗末なお茶と謙遜して、 粗茶という。 粗布団を敷いて、粗火鉢に、粗隠居か。 ハラ減ってるんで、 鰻丼を二つ。 お茶菓子を食べるか。 粗お茶菓子で。 羊羹を切るか。 羊 羹もいいが、十本も食うと、げんなりする。 仕事は、どうだい。 隠居さん、 普請をしたそうで。 建て増しをした、ここだ。 ヘコの間ですか、ヘコ柱が いい。 床の間、床柱、竹だ、最近は四角い竹がある。 節は抜いてあるんで? 大工が手落ちしていると、燃えた時、パチパチ音がする。 火事にするな。

 掛軸(かけじ)、笹っ葉の塩漬で? 掛け物は雪折れ竹だな、「しなわるるだ けはこらえよ雪の竹」、耐え忍ぶことが大事だということだ。 おつな都々逸だ ね。 賛だ、褒め言葉、けっこうな賛でございますと言えば、みんなお前を見 上げる、たっとぶ。 かっこむ、お茶漬で。 持ち上げてくれる、かついでく れるな。 ふだん八公と呼ぶ者は、八っつあん。 八っつあんは、八五郎さん。  八五郎さんが、八五郎殿となる。 八五郎殿は、八五郎様となって、頭が下が る。 その上は、正一位八五郎大明神か。

いいことを教わった、裏の大家の所へ行こう。 おーい、いるかい、大家。  その声は、ガラッ八か。 掛け物を褒めに来た、なんだ字ばかりだな。 「近 江(きんこう)の鷺は見がたく、遠樹の烏見易し」。 金公と延次のカカア、ハ ラがでかくなって、うなっている、けっこうな賛ですね。 賛じゃない、詩だ、 根岸の亀田鵬斎先生の詩だ。

医者の先生の所へ。 おーれ、八五郎君か。 先生は? ご在宅です。 い ないの? いるんです、いることをご在宅。 いないことを、ご贅沢。 先生、 八五郎君が来ました。 これはこれは珍客到来。 巾着頂戴。 掛け物を見た い、掛け物にご執心か。 宗旨は、法華で。 粗末なタイフクがある。 大福 ですか。 大幅、払子(ほっす)が描いてある。 水を撒く? それはホース。  字を、先生読んで下さい。 「仏は法を売り、祖師は仏を売り、末世の僧は祖 師を売り、汝五尺の身体を売って、一切衆生の煩悩をやすむ。色即是空」。 け っこうな詩で。 詩じゃあない。 それじゃ、賛。 一休禅師の悟、悟り、折 り紙付きの悟だ。 三、四、五、そうか、一目(ひとめ)ずつ、上がればいい んだ。

兄イの所へ、掛け物を褒める、見せてくれ。 汚たねえな。 時代がついた、 さびがついたね、と言う。 小せえ舟に人が沢山乗っている絵だな。 男が孕 んで、袋を担いでいるのは? 布袋和尚だ、唐土(もろこし)四明山金山寺の。  モロコシと金山寺味噌を盗んだふてえ野郎か。 背が低くて、長い頭で長いひ げの爺さんは? 福禄寿だ。 女が一人いるね。 弁天様だ。 よく間違いが 起きねえ。 文句は、上から読んでも、下から読んでも「長き夜の とをの眠 りの 皆目覚め 波のり舟の 音のよきかな」。 けっこうな六だな。 いや、 七福神の宝船だ。 その横にある短冊は何だ? 古池や蛙飛びこむ水の音。 い い八だな。 いいや、芭蕉の句だ。

蜃気楼龍玉の「駒長」2019/12/02 06:59

 蜃気楼龍玉は、9月に真打昇進が決った2010年1月の499回のこの会で、 五街道弥助で「駒長」を演っていた。 上々の出来と書いていたが、どう成長 したか。 焦げ茶の着物、黒い羽織の龍玉、この噺は自分の名前同様、珍しい と言う。 珍しい噺は、やり手がいない、面白くない。 古典落語には今や死 語の「美人局(つつもたせ)」が出てくるが、同じようなことは只今もある。 間 男の値は七両二分、ターゲットの男から示談金を取ろうとするのだが、難しい 犯罪だ。 亭主が飛び込むタイミングが難しい、<よがるのを合図に夫婦談じ 合い>。

 お前さん、いったい、どうするんだい。 平気だよ、お前源氏になるか、借 金は払わないと決めればいい。 どうにもこうにも、ならないんだよ。 深川 から来る背負(しょ)い呉服屋の丈八という男、あいつから損料物を借りて、 質屋に入れるんだ。 たちが悪いよ。 一文無しだぞ、祭の囃子、スッテンテ ンだ。 狂言を一番、打とうじゃないか、あいつは上方もんで気に入らない、 「アホ」なんてぬかす。 阿呆面かかせてやろう、損料物取って、金も巻き上 げ、身ぐるみ剥いで追い出そう。 あんちきしょう、お前に岡惚れしていやが る。 商売物を広げていても、目だけはお前を見ている。 手紙を書け、丈八 様、お慕いしています、今度どっかで会いましょう、お駒、とか。 その手紙 を落したのを、俺が拾ったことにする。 俺とお前とは、八丁四方を取り仕切 る親分の世話になって、一緒になった、今、その親分の相談に行って来る、と 出かける。 お前と丈八がゴチャゴチャ話しているところに、飛び込んで、ピ カピカの包丁で、脅す。 包丁、錆びてるよ。 包丁を畳に突き立てる。 先 が折れてる。 畳の間に刺す。 どうだ、やらないか。 出来んのかい。 お 互いに一文無しだ、やるしかない。

 手紙を書け。 上出来、上出来。 夫婦喧嘩の稽古だ。 お前、亭主の顏に 泥を塗りやがって、半殺しにしてやる、バチバチバチ。 何、黙っている、丈 八さんの情にほだされて、とか言うんだ、バチバチバチ。 亭主の顏に泥を塗 りやがって、バチバチバチ。 私はぶたれるのは嫌だ、堪忍しておくれ、私が 悪かった。 やれば、出来るじゃないか。

 来たよ。 こんちきしょう、亭主の顏に泥を塗りやがって…。 あのう、お 稲荷さんのお札、一枚いかがでしょう。 何だ。 来たぞ、来たぞ。 お前さ ん、私が悪かった、バチバチバチ。 すまねえ、糊屋の婆さんだった。

 おっ、今度は間違いない。 お前、亭主の顏に泥を塗りやがって、半殺しに してやる、バチバチバチ。 ちょっと、長兵衛はん、待ちなさい。 ア痛ッ、 なんで、あてのことを、どつくねん。 うちのかかあと、間男しやがって。 お 駒はんと…、濡れぎぬですわ。 ここに証拠の手紙がある、俺とお駒とは、八 丁四方を取り仕切る親分の世話になって、一緒になったんだ、今、その親分に 話をつけてもらうよう頼みに行って来る。

 お駒はん、これいったい、どないなってるんで。 丈八さんを巻き込んでし まって、申し訳ありません。 あ、さよか、ええのや、わて、お駒はんのため なら、叩かれてもかましまへん。 いつも、継ぎはぎだらけの、雑巾屋の看板 みたいな着物を着て、気の毒だと思ってました。 もしもお駒はんが、わての おかみさんでしたら、もっと大事にしまんのや。 ワーーーッ! お駒はん、 泣いてるのかいな。 丈八さんは、嬉しいことを言ってくれる、だけどあいつ は、離れようとしない。 私だって、丈八さんのような方と、夫婦になりたい。  わて、これから上方へ行きます、向こうでもみんながよくしてくれる、一緒に 上方へ行こやないか。 可愛がってくれますか。

 そんな汚い着物は脱いで、この中から、いいのを着て。 百人一首の染物で、 胸のあたりから<天つ風雲のかよひ路吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ>、 おいどのあたりに<いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな>。  帯も締めて、きれいになった、長兵衛はん、帰って来るまでに、逃げましょう。  置手紙だけ、置いていきます。

 長兵衛は、友達の家で時間をつぶし、儲けの口があるんだ、前祝いに一杯や ろう。 二人で酒を飲んで、長兵衛は寝てしまう。 いい加減に、起きなよ、 兄イ。 今、何時だ。 もう、そろそろ、夜が明ける。 出刃包丁、貸してく れ。  家に帰って、お駒! お駒! 誰もいない。 火鉢のところに、手紙がある。  「長兵衛様参る お駒より あなた様との御ン約束 嘘から出た真となり 丈 八さまとチイチイパアパア あらあら目出度く かしく」  外に出ると、前 の家の屋根にカラスが一羽、長兵衛の顏を見て……、「アホ! アホ!」

柳亭市馬の「掛取り」前半2019/12/03 07:06

 市馬はグレイの着物に、茶褐色の羽織、挨拶をして、お茶を飲む。 暮の寄 席、演芸場は満員、借金取りから逃れているのか。 <味噌漉しの底に溜まり し大晦日越すに越されず越されずに越す> 慌てることはねえ。 でも、借金 取りが来るよ、言い訳のセリフに困る。 去年は、お前さんが死んだふりをし た。 どこかで大きな棺桶を一つ見つけてきて、中に入って、お前泣けって、 泣けるかい。 皆さん、お悔やみに来て、仕方がないから、目の下にお茶をつ けて泣いたふりをしていたら、白井さんが、目からお茶殻が出てますよって。  大家さんなんか、涙を流さんばかりにして、香典出したから、店賃もきちんと 納めていないのにって言っていたら、お前さん、棺桶の蓋開けて、いいから貰 っとけって。 大家さんが驚いて、八十過ぎてんだよ、下駄も履かないで、す っ飛んで帰った。 明くる日、お前さん、その下駄履いて、大家さんのところ へ年始に行ったんじゃないか。

 好きなものには心を奪われるっていうからな、俺が言い訳をする、相手の好 きなもので。 大家さんは何が好きだ。 狂歌が好き、狂歌家主って言われて る。 お前は押入れに隠れていな。 おや、大家さん、お寒いのに、お茶淹れ るから。 お茶はいいから、店賃を払え。 いくつ? 四つ溜ってる。 数が 半端だ、五つになったら、きれいに流す。 質屋じゃない。 最近、良からぬ ものに凝っていましてね。 何だ? 狂歌、やってみると面白い、大家さんの 気持がわかる。 「何もかもありたけ質に置き炬燵かかろう縞の布団だになし」。  面白いな。 貧乏という題でやってみました、「貧乏の棒も次第に長くなり、振 りまわされぬ年の暮かな」、「貧乏をしても下谷の長者町、上野の鐘のうなるの を聞く」、「貧乏をすれどこの家(や)に風情あり、質の流れに借金の山」。 お 前のは貧乏ばかりだな、あたしも一つやろう、「貸しはやる、借りはとらるる世 の中に、何とて大家つれなかるらん」。 ありがとうございます、桜丸の散る頃 までには、お届けします。 ではどうぞ、お気をつけて、よいお年をお迎えに なりますように。 お前さん、上手いもんだねえ、どこで憶えたの。 寄席に 行くと、噺家がやってるんだ。

 また、来たよ、魚屋の金さんだ、喧嘩が好き。 薪ざっぽう、薪の太いの、 持って来い。 手拭いで、鉢巻をして…、お前は押入れに入ってろ。 こんば んは、八っつあんはいるかい。 おお、いたいた。 金公だな、ふてえ野郎だ、 こっちへ入れ。 銭はねえ、四の五の言わずに、とっとと帰れ(と、ケツをま くる)。 何を、普段が肝心だ、こないだ往来で会った、なぜあの時、言い訳を しなかったんだ、勘定を取るまでは、ここを一寸でも動かない。 いいな、五 分でも動いたら、この薪がお前の血を吸う。 普段が肝心だ、こないだ往来で 会った、なぜあの時、催促しなかったんだ。 催促したら勘定払ったのか、ち くしょう。 動いたな、いったん歯から出した言葉は守れ、じゃあ勘定を取っ たのか。 まだ、何十軒も回るんだ、もらったよ。 受取を出せ。 判が捺し てない。 こんな馬鹿な話はない、ゆんべの夢見が悪かった。 いくつ捺すん だ、真っ赤になっちゃったじゃないか。 商売人だろ、勘定取ったら、お礼を 言え。 なんだ、獅子頭みたいな顔をして。 六円三十銭也か、がめとくなよ、 払ったのは十円札だ、釣りを寄こせ。 ふざけるな。 怒って帰っちゃったよ、 あんなことを言って可哀そうだよ、春になったら、あたしが払いに行くから。

柳亭市馬の「掛取り」後半2019/12/04 06:55

 大阪屋の旦那だ。 義太夫が好き。 長屋の下座のおっ師匠さん、お園さん (太田園子)、一杯飲ませて、酒に転ぶから、三味線をお願いして。 肩ぬぎに なって、見台の代りに蜜柑箱を置いて。 えーーっ、いらっしゃい、お一人様、 ご案内! 「♪お足、払いたい払いたいとは、思えども、身イは貧苦にからま れて、どうにも払いがァーー、テへへへへ、デキマセヌデキマセヌゥウ」。 私 が浄瑠璃好きというので、そうきたか、いつ頃払う。 「♪アーー、ソノコト カエ(デ、デン)、コロ、コロ、キサラギ、初午、桃の節句や、雛済んで、五月 人形も済んだのち、盆過ぎて、菊月済めば恵比須講、大晦日、所詮きれいに出 来ません。それから先は、十年、百年、千年、万年あったとてエーーエーー」。  そのあとなら、払いができるのかい。 「♪オボツカナイ、オボツカナイ」。 ま あ、風邪を引かないように。 「♪今日は千秋楽、万歳、万歳、万歳。」 お前 さん、これ、面白いね。

 酒屋の番頭だ。 芝居好き。 お園ちゃんに帰らないように、お前は太鼓。  お掛け取り様の、お入りーーっ! そこで大阪屋が、手強いから、気を付けろ と言っていた。 上使らしく、風呂敷をひろげて、お入りーーっ! これはこ れは、お掛け取り様には、遠路のところ、ご苦労様にござりまする、してお掛 け取りの趣きは? 「今日の趣きは、余の儀に非ず、謹んで承れ、謹んで承れ ェー」 「月々溜まる酒、味噌、醤油、二十八円六十五銭三厘、残らず勘定受 け取るよう、丁稚貞吉、主人吝嗇兵衛からの厳命。」 言い訳は、これなる扇面 をご覧頂きたい。 「雪はるる、比良の高嶺の夕まぐれ、花の盛りを過ぎし頃 かな」 近江八景の歌だな。 「心やばせ(矢橋)と商売に、浮御堂やつす甲 斐もなく、膳所はなし城は落ち、堅田に落つる雁(かりがね)の、貴殿に顔を 粟津(会わす)のも、比良の暮雪の雪ならで、消ゆる思いを推量なし、今しば し唐崎の…」 「松で(待って)くれろという謎か…して、その頃は?」 「今 年も過ぎて来年の、あの石山の秋の月」 「九月…下旬か」 「三井寺の鐘を 合図に」 「きっと勘定いたすと申すか」 「まず、それまではお掛取り様」  「この家(や)の主、八五郎」 「来春お目に……」 「かかるであろう(ボ ーーン、と鐘の音)」

お前さん、上手だねえ、来年からも楽しみだよ。 お隣にも、掛け取りが二 三人来ているから、こっちに呼んで来ようか。

三笑亭夢丸の「将棋の殿様」前半2019/12/05 07:04

 着物に袴で出た夢丸、日常から着物で、洋服は持っていない、と言う。 着 物でいると、僧侶とか易者かと言われるが、落語家とは言われない。 会津若 松でタクシーに乗り、生れは新潟の新発田だと話したら、キューーッと停まり、 下りろと言う。 戊辰戦争、新発田藩の裏切りで、白虎隊は死んだ、と。 田 圃の真ん中で、下ろされた。 原理主義、過激派の運転手だった。

 ある場所、ある地域の方々には、忘れがたい歴史がある。 末裔が集まって、 お殿様ごっこのようなことをやっている。 会場は駅前の旅館?の花の間、殿 様から足軽まで、黒紋付で集う。 足軽がグループを束ねる大社長で、殿様が フリーター、それも草履取の末裔の会社でアルバイトしている。 下剋上は、 いまだにある。

 殿様は、お世継ぎをつくることだけで、暇。 小咄をつくったので、聴くよ うに。 小咄、その一。 ここに薬缶がある。 蓬莱山より、亀が遊びに来た。  薬缶のツルが喜んだ。 どうじゃ。 小咄、その二。 薬缶が夜な夜な盗みに 出かけた。 蓋つきは、泥棒の始まり。 苦しゅうない、笑え。 お殿様のご 面前で笑うことは憚られます。 次の間に下がって、笑え、呵々大笑してもか まわぬ。

 殿様、下手の横好きで将棋を指す。 一局、相手をいたせ。 余の駒を並べ よ。 先手後手は、どう決める? 歩を振って、と金か歩で決めます。 先手 と後手と、どちらが有利か? 先手です。 余が先手じゃ。 角道を開けた。  余りに素晴らしき一手で。 余りに見事な手で。 恐れ入ります、手前は、こ ういうことに。 余の駒を取りおったな、無礼者、貴様、逆賊! 展開と関係 のないところを指せ。 飛車が、わが陣中に入り、目障りである。 どうか憐 憫の沙汰を持って、お見逃しを。 泣いて懇願いたすか、しばらく動かしては ならん。 では、わが飛車も手前の陣中に成り込む。 途中に、金銀がござい ます。 金銀は目障りじゃ、撤去いたせ、手討ちにいたせ。 その亡骸を、こ ちらに引き渡せ。 余の掌中で、息を吹き返しおったわ。 金銀は余の下で働 く。 王手じゃ。 王が逃げ回るのは、みっともない。 詰みじゃ。