蜃気楼龍玉の「駒長」2019/12/02 06:59

 蜃気楼龍玉は、9月に真打昇進が決った2010年1月の499回のこの会で、 五街道弥助で「駒長」を演っていた。 上々の出来と書いていたが、どう成長 したか。 焦げ茶の着物、黒い羽織の龍玉、この噺は自分の名前同様、珍しい と言う。 珍しい噺は、やり手がいない、面白くない。 古典落語には今や死 語の「美人局(つつもたせ)」が出てくるが、同じようなことは只今もある。 間 男の値は七両二分、ターゲットの男から示談金を取ろうとするのだが、難しい 犯罪だ。 亭主が飛び込むタイミングが難しい、<よがるのを合図に夫婦談じ 合い>。

 お前さん、いったい、どうするんだい。 平気だよ、お前源氏になるか、借 金は払わないと決めればいい。 どうにもこうにも、ならないんだよ。 深川 から来る背負(しょ)い呉服屋の丈八という男、あいつから損料物を借りて、 質屋に入れるんだ。 たちが悪いよ。 一文無しだぞ、祭の囃子、スッテンテ ンだ。 狂言を一番、打とうじゃないか、あいつは上方もんで気に入らない、 「アホ」なんてぬかす。 阿呆面かかせてやろう、損料物取って、金も巻き上 げ、身ぐるみ剥いで追い出そう。 あんちきしょう、お前に岡惚れしていやが る。 商売物を広げていても、目だけはお前を見ている。 手紙を書け、丈八 様、お慕いしています、今度どっかで会いましょう、お駒、とか。 その手紙 を落したのを、俺が拾ったことにする。 俺とお前とは、八丁四方を取り仕切 る親分の世話になって、一緒になった、今、その親分の相談に行って来る、と 出かける。 お前と丈八がゴチャゴチャ話しているところに、飛び込んで、ピ カピカの包丁で、脅す。 包丁、錆びてるよ。 包丁を畳に突き立てる。 先 が折れてる。 畳の間に刺す。 どうだ、やらないか。 出来んのかい。 お 互いに一文無しだ、やるしかない。

 手紙を書け。 上出来、上出来。 夫婦喧嘩の稽古だ。 お前、亭主の顏に 泥を塗りやがって、半殺しにしてやる、バチバチバチ。 何、黙っている、丈 八さんの情にほだされて、とか言うんだ、バチバチバチ。 亭主の顏に泥を塗 りやがって、バチバチバチ。 私はぶたれるのは嫌だ、堪忍しておくれ、私が 悪かった。 やれば、出来るじゃないか。

 来たよ。 こんちきしょう、亭主の顏に泥を塗りやがって…。 あのう、お 稲荷さんのお札、一枚いかがでしょう。 何だ。 来たぞ、来たぞ。 お前さ ん、私が悪かった、バチバチバチ。 すまねえ、糊屋の婆さんだった。

 おっ、今度は間違いない。 お前、亭主の顏に泥を塗りやがって、半殺しに してやる、バチバチバチ。 ちょっと、長兵衛はん、待ちなさい。 ア痛ッ、 なんで、あてのことを、どつくねん。 うちのかかあと、間男しやがって。 お 駒はんと…、濡れぎぬですわ。 ここに証拠の手紙がある、俺とお駒とは、八 丁四方を取り仕切る親分の世話になって、一緒になったんだ、今、その親分に 話をつけてもらうよう頼みに行って来る。

 お駒はん、これいったい、どないなってるんで。 丈八さんを巻き込んでし まって、申し訳ありません。 あ、さよか、ええのや、わて、お駒はんのため なら、叩かれてもかましまへん。 いつも、継ぎはぎだらけの、雑巾屋の看板 みたいな着物を着て、気の毒だと思ってました。 もしもお駒はんが、わての おかみさんでしたら、もっと大事にしまんのや。 ワーーーッ! お駒はん、 泣いてるのかいな。 丈八さんは、嬉しいことを言ってくれる、だけどあいつ は、離れようとしない。 私だって、丈八さんのような方と、夫婦になりたい。  わて、これから上方へ行きます、向こうでもみんながよくしてくれる、一緒に 上方へ行こやないか。 可愛がってくれますか。

 そんな汚い着物は脱いで、この中から、いいのを着て。 百人一首の染物で、 胸のあたりから<天つ風雲のかよひ路吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ>、 おいどのあたりに<いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな>。  帯も締めて、きれいになった、長兵衛はん、帰って来るまでに、逃げましょう。  置手紙だけ、置いていきます。

 長兵衛は、友達の家で時間をつぶし、儲けの口があるんだ、前祝いに一杯や ろう。 二人で酒を飲んで、長兵衛は寝てしまう。 いい加減に、起きなよ、 兄イ。 今、何時だ。 もう、そろそろ、夜が明ける。 出刃包丁、貸してく れ。  家に帰って、お駒! お駒! 誰もいない。 火鉢のところに、手紙がある。  「長兵衛様参る お駒より あなた様との御ン約束 嘘から出た真となり 丈 八さまとチイチイパアパア あらあら目出度く かしく」  外に出ると、前 の家の屋根にカラスが一羽、長兵衛の顏を見て……、「アホ! アホ!」