柳亭市馬の「掛取り」後半2019/12/04 06:55

 大阪屋の旦那だ。 義太夫が好き。 長屋の下座のおっ師匠さん、お園さん (太田園子)、一杯飲ませて、酒に転ぶから、三味線をお願いして。 肩ぬぎに なって、見台の代りに蜜柑箱を置いて。 えーーっ、いらっしゃい、お一人様、 ご案内! 「♪お足、払いたい払いたいとは、思えども、身イは貧苦にからま れて、どうにも払いがァーー、テへへへへ、デキマセヌデキマセヌゥウ」。 私 が浄瑠璃好きというので、そうきたか、いつ頃払う。 「♪アーー、ソノコト カエ(デ、デン)、コロ、コロ、キサラギ、初午、桃の節句や、雛済んで、五月 人形も済んだのち、盆過ぎて、菊月済めば恵比須講、大晦日、所詮きれいに出 来ません。それから先は、十年、百年、千年、万年あったとてエーーエーー」。  そのあとなら、払いができるのかい。 「♪オボツカナイ、オボツカナイ」。 ま あ、風邪を引かないように。 「♪今日は千秋楽、万歳、万歳、万歳。」 お前 さん、これ、面白いね。

 酒屋の番頭だ。 芝居好き。 お園ちゃんに帰らないように、お前は太鼓。  お掛け取り様の、お入りーーっ! そこで大阪屋が、手強いから、気を付けろ と言っていた。 上使らしく、風呂敷をひろげて、お入りーーっ! これはこ れは、お掛け取り様には、遠路のところ、ご苦労様にござりまする、してお掛 け取りの趣きは? 「今日の趣きは、余の儀に非ず、謹んで承れ、謹んで承れ ェー」 「月々溜まる酒、味噌、醤油、二十八円六十五銭三厘、残らず勘定受 け取るよう、丁稚貞吉、主人吝嗇兵衛からの厳命。」 言い訳は、これなる扇面 をご覧頂きたい。 「雪はるる、比良の高嶺の夕まぐれ、花の盛りを過ぎし頃 かな」 近江八景の歌だな。 「心やばせ(矢橋)と商売に、浮御堂やつす甲 斐もなく、膳所はなし城は落ち、堅田に落つる雁(かりがね)の、貴殿に顔を 粟津(会わす)のも、比良の暮雪の雪ならで、消ゆる思いを推量なし、今しば し唐崎の…」 「松で(待って)くれろという謎か…して、その頃は?」 「今 年も過ぎて来年の、あの石山の秋の月」 「九月…下旬か」 「三井寺の鐘を 合図に」 「きっと勘定いたすと申すか」 「まず、それまではお掛取り様」  「この家(や)の主、八五郎」 「来春お目に……」 「かかるであろう(ボ ーーン、と鐘の音)」

お前さん、上手だねえ、来年からも楽しみだよ。 お隣にも、掛け取りが二 三人来ているから、こっちに呼んで来ようか。