五街道雲助の「火事息子」後半2019/12/08 07:30

 番頭さんはどうした? 裏の、折れっ釘にぶら下がってます。 からきし意 気地がないんだから、下ろしてやれ。 ところで旦那様、最前目塗の時に、手 伝って頂いた方ですが…。 あのマシラ(猿)のごとく、屋根から屋根へ、飛 び越えて来てくれた。 引き留めてございます。 お目にかかって、何…、何 していただける、と。 五年前に、ご勘当になりました若旦那でございます。  危ないことをする、頭から落ちて、怪我でもしたら…、倅でしたか。 会う訳 にはいきません、お上に願って勘当にした。 赤の他人なればこそ、会ってお 礼を言うのが筋というものでしょう。 どうぞ、こちらで。 邪魔は身体中に ある彫り物、へっついの脇にかしこまっている。 これはこれは、あなたでご ざいましたか。 先程はお手伝い頂きまして、一言お礼を、有難うございまし た。 相変わらず、お達者のご様子で…。 あなた様も、身体に絵がいっぱい 入りましたな、あれは伊勢屋の倅だと言われる、親の顏に泥を塗るというのは お前のことだ。 お礼を言えばこれまで、お引き取りを。

 若旦那、ちょっとお待ちを。 お袋様に一目会わしてやって下さいませ。 婆 さん。 猫がブルブル震えていて…。 こっちに来な、倅が来てるから、会っ てやんな。 藤三郎かい、年を取ったね。 そら番頭だ。 佐平さん、どいて おくれ。 お前、どこで、何をしているんだろう。 お父っつあんだって、雪 の晩なんか、心配してたんだよ。 藤三郎、小さい時から火事が好きで、十七 の時、火消になりたいと言い出して、鳶頭が組出合に廻状を回してくれた。 十 九の時、家を飛び出して、久離切って勘当ということになり、身代が増えても 譲る者がいない、直って詫びを入れれば、身代を譲ることができる。 近所に 大きな火事がありますよう、祈っていました。 何を言っているんだ、近所の 人に聞かれたらどうする。 近所の人より、家の倅が大事です。 いい九紋龍 の絵を描いてもらって、お前は色が白いから、よく似合う。 可哀想、着物を やろう。 着物に、お小遣いをつけて、うっちゃっておけば、誰かが拾う。 着 物ぐらい、捨ててやれ。 着物は箪笥ごと、お小遣いは千両も。 小さい時、 黒紋付、羽織、袴で歩いていると、この綺麗な坊っちゃんは、どこのお子さん だろう、どんな母親が産んだんだろう、と言われて、母親、それは私ですと、 飛び出して…。 そうだ、紋付、羽織、刀に雪駄、小僧も一人、捨ててやろう。  そんな形(なり)をさせて、どうするんだ。 火事のお蔭で会えたのだから、 ちょいと火元に礼にやりましょう。

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