『サイラス・マーナー』<等々力短信 第1126号 2019(令和元).12.25.>2019/12/25 07:09

『サイラス・マーナー』は読んだことがなく、作者のジョージ・エリオット がジョージなのに女性だというのも、知らなかった。 1861年の刊行当時、女 性の作品というだけで軽視されたことと、彼女が妻子のいるパートナーと暮し ていたという事情があった。 恩師の奥様、小尾芙佐さんが9月、光文社古典 新訳文庫から『サイラス・マーナー』を上梓された。 高校生の時に出合って いたが、2016年本屋大賞(翻訳小説部門)を受賞された『書店主フィクリーの ものがたり』(その年6月25日の短信1084号で紹介)に好きな小説の一つと して出て来て、原作を再読、感動し、この物語の素晴しい魅力を、今の人たち にもぜひ伝えたいと、強く感じられたのだそうだ。 私などは翻訳本を読むだ けでもかなりの時間を要したから、翻訳のご苦労は如何ばかりかと思った。

 機織り職人のサイラス・マーナーは、婚約者がいたが、親友の裏切りで金を 盗んだという無実の嫌疑を受け、教会の御神籤で有罪とされ、親友と婚約者が 結婚して、故郷を遠く離れラヴィロー村の採石場近くに移り住む。 すっかり 人間嫌いになり、機を織って稼いだ金貨を眺め数えるだけを唯一の楽しみに、 孤独な守銭奴となって15年になる。 村には、経済格差の二つの階級があっ た。 郷士のキャス家を筆頭に、地主の旦那衆、医師、獣医、牧師、教区執事、 治安判事など。 他方に、肉屋、車大工など商工人、そして農民、小作人。 教 会でも、居酒屋の虹屋でも、それぞれの席が決まっていた。

 キャス家の長男ゴッドフリーは、ラミター家の美人ナンシーと結婚したいの だが、実は秘密の結婚で子があり、そのため次男のダンスタンに脅されている。  サイラスは貯めた虎の子272ポンド余を盗まれ、悲嘆に放心状態となり、犯人 のダンスタンは姿を消す。 キャス家では大晦日の大宴会があり、そこへ子を 抱いて乗り込もうとした秘密の妻モリーが雪の中で倒れ、子供だけがサイラス の小屋にたどりつく。 たまたまの発作から覚めたサイラスは、炉端に金貨か と見違えて黄金色の巻き毛の幼子を見つける。

 サイラスは、金貨の代りにやって来た二歳の幼子を、救貧院にやらず、自分 で育てる決心をし、妹の名を採ってエピーと名付ける。 車大工のおかみさん ドリーの強い助けもあり、娘エピーがサイラスと世間の絆を結びつけてくれる ことになる。 庶民階級のドリーが、サイラスの過去の受難、教会の御神籤で 有罪とされた件を聞いて、いろいろと考えた、いわば「哲学」が、とてもいい。  「わたしらが知るかぎりの正しいことをしてな、あとは信じるだけなの。」 父 親のサイラスの格別な愛情のもとで、エピーは成長する。 純粋な愛というも のには詩のいぶきが感じられ、このいぶきは、ずっとエピーをとりまいていて、 エピーの心はいつまでも初々しさを保っていた。

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