鈴々舎馬るこの「八幡様とシロ」2020/01/03 07:25

 真打になって二年半、何か稽古しなければと、オペラを習い始めた。 レッ スン1か月、初台の新国立劇場でオペラ『椿姫』(?)の合唱に出た。 「乾 杯の歌」などをイタリア語で歌う(実際に太い声で歌って(拍手))。 大勢な ので、一人ぐらい手を抜いてもわからない。 貴重な体験だった、アンコール は「フニクリ、フニクラ」、観客は「ブラボー!」「ブラボー!」、アンコールを やりたがる、出たり入ったりする。 その間、合唱団は立ちっぱなし、怒りが 湧いてくる。 普段お弔いの時にしか着ないスーツを着て、靴下がパッツン、 パッツンになった。 家に帰って脱ぐと、ふくらはぎが砂時計みたいになって いた。

 蔵前の八幡様の境内で、白のムク犬が可愛がられていた。 次の世で人間に 生まれ変わろうと、サンシチ二十一日、ハダシ参りをした。 朝、シロを呼ぶ 声がして、衣冠束帯の八幡様がいた。 犬っころの分際で人間に生まれ変わろ うなどと…、だが気分のよいことがあった、ウィル・スミスの『アラジン』実 写版を観た、山寺宏一、「がってん」のナレーターの吹き替えで。 慌てて江戸 に帰ってきたら、馬るこという男が、20キロ痩せますようにって、願っている から、できますよ、毎日キャベツ食っていればって。 シロ、いいよ、人間に してやる、ゆっくり寝ろ。

 明くる朝、一陣の風が吹いて、シロの毛が抜けて、丸裸。 八幡様が登場、 まてまて、最終試験だ、人間に混じって奉公して下さい、と。 オシッコをす る時、足を上げたり、犬っぽいものを残していると、アウト! で、犬に戻る。  一日がんばれば、人間になれるぞ。

 上総屋の旦那だ、旦那は口入屋だから頼もう。 すっ裸だから、奉納手拭い を腰に巻いて。 助けて下さい。 ウチに来なさい。 色白のいい男だが、追 剥に身ぐるみ剥がれたらしい。 足を洗いな、その水を飲むんじゃない。 濡 らした廊下を雑巾で拭きな、四つん這いが様になっているな。 お腹空いてん だろう、お清、おまんまを出してやんな、沢庵でいいだろう。 箸で食いな。  ちょっと待て、何か嫌いなものがあるか。 キシリトール、チョコレート、ニ ラ、ニンニク、玉ねぎ…、人間の味覚の六倍、感じるので。 デザートにキシ リトール・ガムは駄目か。 二升、食べたのか、まあいいだろう。 さらしだ、 えっ、フンドシをしたことがないのか。 着物と帯だ、着たことがないのか。  四つん這いになって、お清の尻を嗅ぐんじゃない。 帯をくわえて、引っ張る んじゃないよ。 お前まるで〇〇のようだな。 ハーーイ、八幡様でーす。 お 前まるで剽軽者のようだな。 セーフ!

 隠居さん、お探しの剽軽者を連れて来ました。 面白さが滲み出る男で、敷 居にアゴを乗せ、腹ばいになってます。 下駄を庭に埋めて来て、得意げにな ってる。 名前は? シロで。 ただのシロか? ただシロ。 忠四郎、いい 名だ、どこで生まれた? 観音様の裏の長屋で。 あそこは私の家作だが、長 屋のどこだ。 突き当りの、掃き溜めです。 鉄瓶がチンチン言っているから、 蓋をしてくれ。 (シロ、チンチンをする) お茶を淹れるんで、焙炉(ほい ろ)を取ってくれ。 ワン、ワン! ハーーイ、八幡様でーす。 シロ、お前 何をやってんの。 お前まるで〇〇のようだな。 お前まるで江戸屋小猫のよ うだな。 セーフ! あと半日がんばれ。

 眼鏡がない。 探し物は得意です。 臭いを嗅いで。 ありました! カラ スの巣の中にあったのか。 お前まるで〇〇みたいだな。 ハーーイ、八幡様 でーす。 犬の嗅覚は、人間の1億倍というけれど。 お前まるでソムリエみ たいだな。 セーフ! だ、忠四郎。

 唐人笛、チャルメラが聞こえ、犬の遠吠えが始まる。 ヒラリーラリ、ヒラ ヒラリラ! 忠四郎が庭で四つん這いになっている。 ウワーッ、ウワーッ、 ウワーッ! ハーーイ、八幡様でーす。 発声練習だな、セーフ!

 朝だ、人間になったから、勘が悪い。 お前、昨日、犬みたいだったな。 ハ ーーイ、八幡様でーす。 判定は、一日経ったから、セーフ! 今朝までに、 人間になりました。