柳家花緑の「粗忽の使者」前半2020/01/06 07:07

 あわて者、そそっかしい人のお噺で…。 私の中にもある、発達障害だとい うことを公表し、テレビなんかで話していますが、識字障害、限局性というの で、字を認識するのが難しい。 落語家は痔になりやすいといわれる、着物を 着て座布団に座って、尻に力が入る。 下血をして、死ぬんじゃないかと驚い て、総合病院に行った。 問診表に記入するのだが、えらく緊張する、ストレ スになって疲れ、時間がかかる。 「朝からチが出ました」、と書くのだが、「血」 かチョンのない「皿」かで悩む、朝から皿が出ました、じゃおかしい。 「ジ のウタガイあり」の「ジ」が書けない、病いダレに何だったか、ガラケータイ で確かめるのだが、「じ」か「ぢ」か、考えて時間がかかる。 

 杉平柾目之正(まさめのしょう)の家来で粗忽者の治部田治部右衛門、月代 を剃る腕は信頼が出来、右に出る者がなく、いつも殿様のおツムリをやる。 あ る時、剃刀の刃がゆるんだらしくて、黒塗の柄で殿様の頭を「トン、トン」と、 やった。 平身低頭するのを殿様、その方の粗忽は存じておる、以後、気を付 けるんだぞ。 治部田治部右衛門、生きているだけで面白い人物で、芸人はと てもかなわない。 この噂が広まって、親戚筋の赤井御門之守の所へ、戯れの お使者に出されることになった。

 お使者というので、嬉しい、指折り数えて、当日。 おーーい、弁当! 弁 当! 別当を、呼んでいるんだよ。 あれ、を引け、豚、牛、鹿…。 馬でご ざいますか? 小さいな。 それは、お屋敷の犬で。 お乗り下さい。 首が ない。 反対です、お乗り替えを。 その首、切って、前につけろ。 できま せん。 女中が三人笑っておる。 このまま参る。 後ろ向きに乗ったまま行 くので、子供が沢山ついて来る、まるでブレーメンの音楽隊。 そのまま、お 屋敷へ。 その様子を、職人が目撃した。

 お使者が来たんだが、もっさりした野郎でな、裃(かみしも)なんかこんな 風に曲がっている、田中様が「拙者は当家の家臣田中三太夫」と名乗ると、そ いつも「拙者は当家の家臣田中三太夫」と言いかけて、「では、ござらん、杉平 柾目之正の家臣治部田治部右衛門」。 「お使者のご口上を?」と言われて、モ ジモジ、「ご口上を失念した」というんだ。 よしなにお伝え頂きたい、自分は 庭の隅で切腹する、と言い出した。 田中の旦那が、憶えている所は? 毛ほ ども、ござらん。 幼少の時からケツをつねってもらうと忘れたことを思い出 す、おつねり下さいてんで、キュウクツ袋を脱いだ。 田中の旦那が、指をポ キポキやって、試みる。 感じません、本気でお願い致します。 本気でござ る。 もっと手荒く。 「いかがでござる治部田氏」。 駄目。 「指先に力量 のある御仁」を探そう、力士を雇っても、ということになって、今、物別れだ。

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