柳家権太楼の「鼠穴」上2020/01/08 07:12

 人間は夢を見ます。 悪い夢では、奈落に落ちる夢、誰かに追っかけられる 夢。 私にもあります。 五臓の疲れ、今で言えばストレス。 三年間、同じ 夢を見る。 交通事故、ブレーキを踏んでるつもりなのだが、大きなトラック にぶつかる。 七十すぎて、もうすぐ三、免許の更新やめようかと思って、東 京太・うめ子の漫才、十年位上の先生に聞いたら、ヤメロ! と言う。 松戸警 察に免許を返納して、帰りに無免許運転で捕まった。

 義理とフンドシは、外したことがない、という見栄っ張りがいる。 お袋も 嘘つきで、見栄っ張りだった。 圓歌(山の穴の)は嘘つき、「徹子の部屋」で、 歳は幾つか聞かれて、わからないんだよ、3月10日の大空襲で小学校が燃えた、 区役所も燃えたんで、と。 同級生は、燃えない。

 江戸っ子は宵越しの銭は持たない、というけれど、田舎から出て来た人は、 コツコツ貯めるというポリシーがある。 国表から竹次郎さんが、お出でで。  弟だ。 遠慮するな、江戸見物か。 兄さんに、頼みがあって来た。 父っつ あんの田地田畑を売り払い、兄さんは江戸へ出て、オラは茶屋酒を覚え、アマ ッ子にちやほやされ、バクチ場で何もかも無くしてしまった。 国にいられな いようになった。 銭を稼いで、父っつあんの田地田畑を取り返したい、奉公 させてくれないか。 わかった。 バクチはいけねえ。 国の者たちが、兄さ んの所に行っても、よくしてもらえないと言っている。 歳を取ったら、人に やさしくなれる。 びしばし働いてもらう。 だけど竹、料簡が狭すぎる。 百 両働いて、三両くれるのが、奉公だ、自分で商いをしろ。 元手がねえ。 元 手は、俺が出してやる。 有難てえ、兄さん、お願えだ。 待ってろ、支度す るから。 国の者は良く言わねえ、茶一つ出さない、と言うけれど、やっぱり いい兄さんだ。 竹、商いの元手だ、無駄遣いするな。 兄さん、有難うござ いました、叱言を言われると思ってた。

 幾らくれたんだろう、三十両か、二十両、まさか十両ってことはないだろう。  三文だ! 二束三文。 落したのかな? 落してねえ。 三文で、何するって のか。 国の人は確かだ、鬼だ。 こんな…、三文、地べた堀ったって、出て 来ないけれど。 腹、減った、そこに飯屋がある、三文じゃあ、飴玉も買えな い。 こんな所にしゃがみ込むんじゃない。 そこどけ、こっちへ来い。 お っかあ、食うもんないか。 この人だ。 芋しかない。 芋でもいい。 身内 はいねえのか。 おっぽり出したら、野垂れ死にだ、大家に相談してやる。 い いよ、裏の物置なら使って、雨露をしのげる。