福沢諭吉の「無限の苦痛」[昔、書いた福沢196]2020/01/19 08:09

         福沢の「無限の苦痛」<小人閑居日記 2003.12.28.>

 21世紀に向けて福沢を読み直すための事業として慶應義塾大学出版会から 刊行が続けられていた『福澤諭吉著作集』全12巻が完結した。 その第12 巻『福翁自伝・福澤全集緒言』を編集した松崎欣一さんから、ご自身の書かれ た同巻の解説のコピーを送っていただいた。 この解説は、西川俊作さんが『三 田評論』12月号に書かれた「『福澤諭吉著作集』全12巻完結」で「立派な解 説」と評価されたものである。 福沢は『福翁自伝』でも、それを補う自身の 翻訳・著作活動の解説である『福澤全集緒言』でも、前半生には生彩に富むス トーリーを語っているのに、後半生に関しては、あっさりとしか語っていない。  それはなぜか、福沢が言い残し、後世に託したものは何か、それについて松崎 さんが「立派な解説を与えられた」と、西川さんは言ったのだ。

 私は松崎さんに、こんなお礼のハガキを書いた。 「(あいさつ部分・略)一、 『緒言』中の自らの著作に対する福沢自身の評価を「行数」で考察された思い 付き(スタチスチク)に感心。 二、著作が読まれず理解する者も少ないとい う福沢の実感が『全集』編纂の原動力というご指摘。 三、文明の精神を担う 拠りどころとしての「慶應義塾」を、担う一ランナーであったのに、その付託 に気付かなかったという私の反省。 四、自身の描いた筋書(理想)と現実と の乖離に対する福沢の「無限の苦痛」が『全集』『緒言』『自伝』を生んだこと。  等々、教えられる所が多く、今年の最後をしめくくる、よい勉強になりました。」