坂本竜馬の「日本を今一度洗濯いたし申候」[昔、書いた福沢206]2020/01/29 07:04

     「日本を今一度洗濯いたし申候」<小人閑居日記 2004.3.25.>

 昨夜NHKKテレビで坂本竜馬の「日本を今一度洗濯いたし申候」という言 葉を取り上げていた。 アナウンサーが京都国立博物館へ現物を見に行ってい たが、姉の乙女あての手紙にある。 宮地佐一郎さんの『龍馬の手紙』(旺文社 文庫)を見たら、文久3年6月29日付。 少し読みやすく書き直すと「私事 も、此の節はよほど芽を出だし、一大藩(一つの大きな大名=越前福井藩)に よくよく心中を見込まれて、頼みにせられ、今何事かでき候得ば、二三百人計 (ばかり)は私し預り候得ば、人数きままに使い申し候よう相成り、金子(き んす)などは少し入り用なれば、十、廿両の事は誠に心安くでき申し候」とい い、下関で長州を砲撃した外国軍艦の修理を、外国と内通した幕府が江戸(横 浜)で行ったことを憤り(「姦吏」と言っている)、「龍馬二三家の大名と約束を かたくし、同志をつのり、朝廷より先ず神州を保つの大本(タイホン)をたて、 それより江戸の同志(旗本大名其余段々)と心を合せ、右申す所の姦吏を一事 に軍(いくさ)いたし打殺(うちころし)、日本(ニッポン)を今一度せんたく (洗濯)いたし申候事にいたすべくとの神願(しんがん)にて候。此の思い付 きを大藩にもすこぶる同意して、使者を内々下さるる事両度。 しかるに龍馬 すこしもつかえ(仕官のことか)をもとめず。 実に天下に人物のなき事これ を以てしるべく、なげくべし」

       牡蛎殻(かきがら)の中に住む<小人閑居日記 2004.3.26.>

 坂本竜馬の「人間は牡蛎殻(かきがら)の中に住んでいるもの」という言葉 は、やはり慶応3年4月初旬の乙女あての手紙にある。  「此頃、みょうな岩に行かなぐり上がりしが、ふと四方を見渡して思うに、 さてさて世の中というものは牡蛎殻ばかりである。 人間というものは、世の 中の牡蛎殻の中に住んでおるものであるわい。 おかしおかし。 めで度かし こ。  龍馬       乙姉様 御本(おんもと)」

 丸山真男さんの岩波新書『日本の思想』にあった「たこつぼ論」?だったか を思い出した。 日本の学者はそれぞれの専門分野に狭く深く入り込んでいて、 交流発展がないというのである。 ずっとあとになって「学際的」研究という ようなことがいわれるようになった。

 竜馬が「人間は牡蛎殻の中に住んでいる」というのは、当時の武士が藩とい う枠からなかなか抜け出せず、竜馬のように早くから日本国というものを意識 して行動するようなことが、できないことを言っているのだろう。 竜馬のつ くった新政府綱領八策の上下議政所の要員(閣僚名簿)の中に、土佐からの竜 馬の名がないことを西郷隆盛に訊かれて、竜馬は「どうも窮屈な役人になるの はいやだ」「世界の海援隊でもやりますかな」と答えた、と伝えられている。 竜 馬は日本国も超えていたのだ。

         坂本竜馬の人生論<小人閑居日記 2004.3.27.>

 坂本竜馬の手紙で私が好きなのは、文久3年3月20日付の坂本乙女あての ものだ。 「扨(さて)も扨も人間の一世(ひとよ)は、がてん(合点)の行 かぬは元よりの事、運のわるいものは風呂よりいでんとして、きんたまをつめ わりて死ぬるものもあり、それとくらべて私などは、運がつよくなにほど死ぬ る場へ出ても死なれず、自分で死のうと思ふても又生きねばならん事になり、 今にては日本第一の人物勝麟太郎殿という人に弟子になり、日々兼ねて思い付 く所をせい(精)といたしおり申し候」

 同じ年の6月28日の乙女あての手紙には、稲村ケ崎で新田義貞が剣を投じ て汐を退かせた故事(手紙では仁田四郎忠常と混同しているが)にふれ、「しほ 時をしりての事なり。 天下に事をなすものは、ねぶと(腫れ物)もよくよく 腫れずては、針へうみ(膿)はつけもふらず候」と、機の熟して来るその時勢 に乗って全力投球する必要があるという「しほ時」論を述べている。

 翌6月30日また長文の手紙を乙女に書き「土佐の芋掘りともなんともいわ れぬ、居候に生まれて、一人の力で天下うごかすべきは、是(これ)又天より する事なり。 こう申してもけしてけしてつけあがりはせず、ますますすみか ふて、泥の中のすずめがい(しじみ貝)のよふに、常に土を鼻の先へつけ、砂 を頭へかぶりおり申し候。 ご安心なされかし。 穴かしこや」とも言ってい る。 どれも、「たとえ」が絶妙である。

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