桃月庵白酒の「寝床」後半2020/02/04 07:19

 素人が語るんだから、料理も酒も用意して、木戸銭も取らずに聞かせるんだ。  木戸銭を取ったら、泥棒だ。 ギュッと握りこぶしを握るな、唇を噛むな。 言 いたいことがあるなら、ちゃんと言え。 お前達、何だな、私の義太夫がまず いから、聞きたくないんだな。 やっと、わかったか。 まずいというが、私 の良さがわかる方がきっといる。 (首を振って)皆無でございます。 いい です、お前達には暇をやる。 長屋を回って、店立てだと言って来い。 廃墟 になさるんで。 洒落にならないよ。

 長屋の皆さん、お待ちになっています、いつ始まるかと。 店立てだ、お前 達も出て行ってくれ。 提灯屋さんは、人を雇って、お出でになっています。  豆腐屋さんは、旦那の義太夫はどこか違う、癖になる、豆腐のようだと、おっ しゃっています。 小間物屋さんのおかみさんは、想像妊娠だったそうで。   鳶頭は、幹事を代わってもらった、と。

 そうか、大人気なかったな、店立て、前言撤回だ。 気持を奮い立たせる。  お師匠さんは、お帰りになっています。 店立て無し、義太夫無しということ で、よろしゅうございますか。 茂造、その姿勢が良くない。 粘り腰だ、茂 造、行動を起こすのは大変だ、日本語にはいい言葉がある、「そこを何とか」。  心はいい、言葉だけでも、そこを踏まえる、今日は語らない。 「そこを何と か」。 茂造、わかった、語りますから。

 お騒々しいことで。 長屋の者、みんな来たのかい。 前の一番番頭、急に いなくなったけな。 旦那の義太夫、一段だったらまだいい、重なる内に脂汗 が出てくる、蔵を回って、窓から飛び降りた。 明くる日、白い鰐が来るとい う謎の言葉を残して、いなくなった。 料理だけは、いいんだ、頂こう。

 御簾内から、いきなり来たよ。 頭を下げろ、危ないですよ。 アッ、倒れ た、人工呼吸をしろ。 三味線が、パイプラインみたいだ。 命にかかわる。  防御本能で、眠気を催す。 みんな、寝る。

 静かになったので、旦那がひょいと覗く。 茂造まで寝ている。 起きなさ い。 アッ、助かった。 天は我を見捨てなかった。 一番後に寝ました。 泣 いてんのは、誰だ? 定吉か。 悲しゅうございます。 茂造に聞かせよう。  泣くんじゃない、どう思ったんで、どこが悲しくなったんだ。 口を利きな、 明日から一番番頭だ、先代萩の千松か、釜入りの五郎市か? そんな所じゃな い、そんな所じゃない、あそこでございます。 あそこは、今私が義太夫を語 った床(ゆか)じゃないか。 あそこは、いつも私が寝る寝床でございます。

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