柳亭小痴楽の「巌流島」 ― 2020/03/02 07:19
TBS落語研究会、只今より開演です、と、小痴楽は始めた。 落語協会と芸 協(落語芸術協会)は、どう違うか。 落語をちゃんとできるのと、できない のとの違い。 宮治は品川生れ、あれで品の字がついている、私は渋谷区、頭 がパーーッとなっている。 気を確かに持って、聴いて下さい。 落語研究会 に出るお話は、6年位前に浅草演芸ホールの楽屋に来て頂いて伺った。 TBS に落研(オチケン)あるんですかって、余計なことを聞いてしまった。 神田 伯山の披露興行が新宿末広、浅草演芸ホールの夜席で行われている。 浅草は 良い所、小汚いのが落ち着く、レンタル着物で歩いている人がいて、時代を感 じる、江戸を感じる。 浅草演芸ホールの真ん前に交番があって、楽屋から出 た小遊三師匠が調べられる。 酔っ払った80か90のお爺さんが、ビール瓶を 振りかぶり、お巡りさんに向って、殺すぞ! イッツ、アメージング。 はー い、殺さない(と、お巡りさん)。 池袋演芸場、小さくて落ち着く。 北口、 西口の、入口にある。 「どう、どう、安いよ」という、お姐ちゃんが寄って 来るところに、挟まれている。
川に橋がない頃は、渡し舟だった。 もう出ようという渡し舟に、若侍が乱 暴に乗り込んで来て、胴の間にどっかり座る。 年の頃は26、7、鰐口で、エ ラが張った顔、額に剣術をやった面摺れの跡があり、朱鞘の大小を差している。 舟が出ると、煙草を吸い、舟べりで火玉をはらったら、雁首が取れて、ブクッ ブクッと川に沈んだ。 侍は船頭止めろ、ここだ、ここだと騒ぐ。 船頭は漕 ぎ続け、このあたりは流れが急で、泥深い、お諦めを願います、ご愁傷様で。 侍は川を見て唸っているが、皆あらぬ方を見ている。 そこへ屑屋が、只今は 飛んだことでと、しゃしゃり出る。 けっこうなお造りで、吸い口の方を手前 どもにお下げ渡しを、つなぎ合わせて面白いものができて、商売になることが ある。 値よく引き取ります、「屑――イ」とやったので、侍が怒った。 勘弁 ならん、手討ちにする、その方の雁首を落としてくれん、遠慮するな。 周り の連中、屑屋だけにボロを出したな、と、みんな見て見ぬふり。
艫(とも)の方にいたご老人、中間に槍を持たせた、お旗本が、しばらく、 しばらくと、割って入る。 屑屋に、このお方に詫び言をなさいと言い、お腰 のものの穢れにこそなれ、しようもないこと、貴殿も許しておやりなさい、年 嵩ゆえお止めだてしている、身共も屑屋に成り代わって、お詫び申すと言うが、 若侍は聞かない。 屑屋に成り代わるのであれば、ご老体も真剣勝負の御立ち 合いをなさるのが筋。 迷惑千万な話、望むところではないが、お相手致そう。 船中でなく、元の岸で。
若侍が、舳(みよし)に立って、漕ぎ返せ、と。 袴の股立ちを取って、供 に持たせた槍を受け取り、胴の間にすっくと立った老武士は、背も伸びた。 海 老のような腰が伸びて、まるで舟から生えた様。 どっちが、勝かねえ。
桟橋に着こうとすると、はやる若侍は飛び上がった。 老体は、槍の石突き で、舟を押して、出せ、出せ、出せ。 そういうことですか、と、船頭は船を 漕ぐ、漕ぐ。 若侍だけが岸に取り残された。 馬鹿者にかまっちゃあいられ ねえ、本当に強いってのはこういうことだ、と舟の連中。 屑屋さん、お礼を 申し上げろ。 侍は、頭がなけりゃあ駄目だ。 ざまあみやがれ、柳の木と、 ヤットウヤットウやっていろ。 そういえば、あの侍、よく見ると、影が薄い、 面白くねえ奴だ、何か言ってやれ。 ここまで来い、馬鹿! 永代を回って来 やがれ。 やい、泳げないんだろう、この宵越しの天婦羅、揚りっぱなし。 屑 屋も何か言ってやれ。 「屑――イ」。
若侍、着物を脱いで、小刀を腹帯に差し込み、ザブンと飛び込んだ。 どう するのかね。 水練に長けていると見え、姿が見えなくなり、五、六間先にブ クブクと泡が上がって、若侍の頭が出た。 その方、水中をくぐって、舟底に 穴でも開けに参ったか。 なあに、さっき落とした雁首を探しに参った。
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