桂吉弥の「胴乱の幸助」後半 ― 2020/03/04 06:35
向こう意気の親父とか言われて、喧嘩を探して歩いている。 割木屋のおやッさん、 向こうの辻に若いもんが仰山集まってるで。 胴乱の幸助が辻を回ると、浄瑠璃の稽 古屋があって、黒山のような人が格子を覗いている。 さあカボクさん、(吉弥がここ で羽織を脱ぐと、クリーム色の着物)今日からあんたのお望みのもの桂川連理柵(れ んりのしがらみ)を。 ♪上りゆくーゥーゥーー、柳の馬場(ばんば)押小路、シャ ン ♪軒を並べし呉服店、現金商い掛硯、テン はい、始めの所から、やって。 柳の 馬場押小路。 あんた、本読んでるんでいけません、節を付けて。 ♪柳の馬場押小 路、お師匠はん、これ嫌いで、おとせの婆(ばば)の嫁いびりが好き。 ♪親じゃ、 親じゃ、親じゃわいな、あんまりじゃわいな。 好きこそ、物の上手なれ、で。
(覗いてる人が)お半長、ムカムカしますね。 おとせの婆の、嫁いびりの声が、 幸助の耳に入った。 派手にやってるわな。 浄瑠璃だっせ。 お半長なんで。 お 半長って、何じゃい。
主(あるじ)さんを出して。 お師匠さん、なんやお人がみえてまっせ。 何か、 ご用で。 みっともないと思いませんか、今、親じゃわいな、と大声を出していた人 は? カボクさんで。 その人を、出してくれ。 この人が自分で返事をします。 お やッさん、これあんた、帯屋、京都の話ですよ。 またヒマな奴がそろうてけつかる のやな、なにかい、京都のもめごとをここで騒いでいるのかい。 あんた、お半長右 衛門、知らんのか。 知らん。 困ったなあ、京都に柳の馬場押小路という所がおま んね。 そこの虎石町の西側に帯屋長右衛門という家がある。 舅(しゅうと)の半 斎の後添え、おとせの婆に儀兵衛という連れ子があって、長右衛門を放り出して、儀 兵衛をあとにすえたい。 長右衛門とその嫁はん・お絹をいびる。 近所の信濃屋の 娘・お半(十四)と長右衛門(四十以上分別盛りの)が、お伊勢参りの下向道でやや こしいことになり手紙が出て、ゴチャゴチャする。 よう、教えてくれた、よし、俺 も聞いた以上はほっとけん性分や、これからちょっと京都まで、このもめ事を納めに 行く。 行ってもらいましょうか。 硯を貸して、関係者を聞いておかなきゃあ。 帯 屋長右衛門、舅の半斎、後添えおとせ、連れ子儀兵衛、お絹、お半、と。
明治初年、汽車もあったが煙の臭いがいやで、三十石の夜船で京都へ。 寺田屋の 浜に上がって、柳の馬場押小路、虎石町の西側に帯屋長右衛門という店を尋ねる。 帯 屋長右衛門、何か聞いたことがある。 あんた、朝から真面目な顔をして、お半長、 小さな子供でも知っている。 柳の馬場押小路に、たまたま帯屋が一軒あった。 お 上がり下さい。 帯を買いに来たのでなく、ちょっと、お話があって。 お座布をあ てて。 火を貸して下さい。 ご用事は? あんた、番頭さんでしょ、主の長右衛門 を。 主は公平(くへい)と申します。 隠しなさんな、近頃ゴチャゴチャもめ事が あるだろう、それで噂は大阪まで聞こえている。 お内儀のお絹さんを出してもらい まひょ。 手前どもの、お内儀はお花と申します。 いちいちそんなことを言うてた ら、しまいには怒りまっせ、それやったら信濃屋さんの方へ話を持っていったら、ち ょっと困るんやないか。 ちょっと待って、アッハッハ、朝から真面目な顔をして、 それお半長と違いますか。 そやお半長やがな。 ウァッハッハ、そんな阿呆な、よ うそんなことを言いに来なはんな、この忙しいのに。 あんた、お半長なら、とうに 桂川で心中しましたがな。 えっ、死んでしもたか、アーア汽車で来ればよかった。
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