柳家喬太郎「夢の酒」の本篇・後半2020/03/08 07:20

御新造が、蒲団の裾にすーーーっと入って来て……、そこでお前が起こした んだよ。 惜しいことをしました。 ウァーーッ! クヤシイッ! ウァーー ッ!

何だい、奥で大声を出して、奉公人に示しが付かないじゃないか。 お花、 泣くんじゃない、お父っつあんが心配してる。 倅の不行跡は、親の責任だ、 話してごらん。 倅は、黙ってなさい。 はい、はい、はい、ウチのことをご 存知だったのかい。 下戸じゃないか、飲めんのかい、厚かましい。 えっ、 うん、お花、お前が怒るのは間違いない。 夢、昼寝の夢なのか? はい、夢 でございます。 二人共、死んじまえ!

 日頃から若旦那はそういうことを思っているから、そんな夢を見るんです。  お父っつあん、私、くやしい、私だってできるんです。 お父っつあん、見て て下さい(下から、上から見る恰好をする)。 お父っつあん、向島へ行って下 さい、淡島様に願をかけて、上の句を詠みあげて寝れば、人の夢の中に入れる と申しますから。 今夜、寝る時にやってみよう。 今! 蒲団を敷かなくて いい。 はい、はい、言うことを聞きますよ。 淡島様、上の句を詠みますか ら、向島のお宅にお導きを、そうしたら下の句を奉納致します。 「われ頼む  人の頼みの なごめずば」(「世に淡島の 神といはれじ」) グーーッ! グー ーッ!

 御新造、大黒屋の旦那様がいらっしゃいました。 倅がご雑作に預かったそ うで。 旦那様は、お好きなんですから、膳の支度を。 とんでもない。 そ うですか、でも冷やはいけない、以前飲み過ぎて、大しくじりをしたことがあ る。 火を落としたところなので、ちょっとお待ちを。 冷やはいけない。 お 燗は、まだでしょうか。 お話したいことがあるが、少しだけ。 お燗は、ま だでしょうか。 お父っつあん、お父っつあん、起きて下さい。 私は燗をつ けなければダメなんで…。 今、起こしたのは、お花かい。 向島のお宅が知 れました、それにしても惜しいことをした。 若旦那と同じことを。 ウフフ フフ、冷やでも、飲めばよかった。