最新の研究による織田信長像2020/04/03 07:04

 もう少しコラム「呉座勇一の歴史家雑記」を、読んでみよう。 著書『陰謀 の日本中世史』(角川新書)では、本能寺の変に関して「明智光秀を操った黒幕 がいた」といった類いの、学会では完全に否定されている奇説珍説を徹底批判 したそうだ(2018年10月23日「奇説が世に浸透する理由」)。 奇説珍説が 世間に浸透する最大の原因は、テレビの歴史バラエティー番組がそれらを面白 がって紹介することにあるという。 歴史学界の共通認識となっている「通説」 と、小説家や在野の歴史研究家の単なる思いつきを、あたかも対等な学説のよ うに扱うのはマスコミの悪しき平等主義で、実際には「見解の相違」など存在 しないのだそうだ。

2018年10月2日「黒幕説 斬新にみえるが」では、その例として織田信長 の人物像について書いている。 一般の人が知っている戦国武将の著名なエピ ソードのほとんどは、江戸時代以降の文献に登場するもので、要は創作である。  人となりに関して同時代人の証言が比較的多いのが織田信長だ。 だが小説や ドラマで好んで用いられるキリスト教宣教師ルイス・フロイスの信長評には誇 張や脚色の疑いがあり、注意する必要がある。

(私は昔「等々力短信」でフロイスの『日本史』を評価していた。第240号  1982.1.25.〈フロイス〉①385年後に実現したルイス・フロイスの念願。『日本 史』全訳の大事業。第241号 1982.2.5. ②数多く南蛮人宣教師に会い、世界 情勢に通じていた信長。第242号 1982.2.15. ③『日本史』の時代、信長秀 吉の時代、ポルトガルとスペインの興隆と衰退。)

 そこで呉座勇一さんの信長だが、意外なことに、最新の研究に従えば、信長 は朝廷・幕府・大寺社などの伝統的権威を尊重し、世間の評判を非常に気にす る人物だった。 本能寺の変に関する黒幕説の背景には「天才的革命家の信長 が明智光秀ごときに倒されるはずがない」という“信長神話”があり、一見斬 新に見えるが、実は通俗的な古い信長像に依存しているのだ、そうだ。