歴史学の手法と、福沢の実学=実証科学2020/04/04 07:02

 『陰謀の日本中世史』(角川新書)がベストセラーになっていた頃、「陰謀論 隆盛「歴史に学ぶ」に警鐘」という、呉座勇一さんのインタビュー記事があっ た(朝日新聞2018年8月19日文化・文芸欄、高久潤記者)。 「教科書に載 っていない〇〇」などと、学界では相手にもされない歴史の陰謀論が、SNSの 浸透もあって、注目される。 陰謀論は「自分だけが知っている」という優越 感をくすぐる。 だが、「はめたつもりがはめられていた」という加害者と被害 者の逆転だったり、一番得した人間が黒幕だったり、根拠がとぼしいまま、特 定のパターンにあてはめられた「物語」ばかりだ。 こうした「物語」に基づ いて教訓を得るということなら、「歴史に学ぶ」のは、やめたほうがいい、と言 う。

 その例として、呉座勇一さんが挙げるのが、源義経が一ノ谷の戦いで見せた 「鵯越の逆落とし」が、太平洋戦争で日本軍が奇襲を多用することになった背 景の一つとされること。 それが転じて「奇襲でアメリカに勝てる」となった が、うまくいったのは真珠湾攻撃など最初だけで、後は連敗。 「鵯越の逆落 とし」の話は、後の研究で創作と考えられている、そうだ。

 呉座勇一さんは、重要なのは「歴史に学ぶ」ではなく、「歴史を学ぶ」ことだ と言う。 歴史的事実は、常に覆され、更新されていく可能性をはらむからだ。  そして、「複雑な資料を読み進めながら、仮説を立て、調べ、資料の真贋を見定 め、事実と言える程度にまで自分で高めていく。こうした歴史学の手法は、現 代の情報社会を生きるうえで重要になりつつあると思う」と語っている。

 先日、U組同級のU君が、スティーブン・ピンカー(ハーバード大学心理学 教授)著『21世紀の啓蒙』(草思社)を読んで、その上巻のレポートを送って くれた。 一読して、私は科学や進歩への信頼など、『学問のすゝめ』や『文明 論之概略』で実学を説いた福沢の啓蒙したものに近いという第一印象を伝えた。

 福沢が説いた自分の頭で考える実学、小尾恵一郎ゼミで教わった学問の方法 は、自然科学のみならず、社会・人文科学を含めた実証科学のことだった。 福 沢は明治16年の「慶應義塾紀事」の中で、「実学」に「サイヤンス」とルビを ふっている。 『文明論之概略』などは、徹底的な実証精神の表れた、「実学」 の事例のオンパレードだ。 「スタチスチク」という言葉を使い、例えば殺人 犯や自殺者の数が年々ほぼ同数になることや、結婚と穀物の値段に負の相関関 係があるという実証分析に言及している。 自分の頭で考えるということには、 四つの要素がある。 問題発見、(オリジナルな)仮説構築、仮説検証(誰もが 納得するように、科学の作法で)、結論説明(解決策を示す)。 実践によって 検証を繰り返し、その都度修正を加え、より良き方法を求め、システマティッ クに問題解決の筋道を考えるものだ。 その時、公智(物事の軽重大小を正し く判断し、優先順位を決める。『文明論之概略』第6章「智徳の弁」)をしっか り働かせる。

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