「経営危機に陥ったある企業の闘い」前半2020/04/11 07:04

 吉田篤生著『慶應義塾大学大学院 SDM伝説の講義』(日経BP)の第6章 は「経営危機に陥ったある企業の闘い」というケーススタディーだ。 時は1997 年、ある地方都市の機械設備メーカーA工業所、個人事業ながら、従業員100 人、年商30億~40億円、創業以来50年、地域での中心的存在として、日本の 高度経済成長を支える機械設備を製造・販売してきた中小企業で、独自に磨き 上げた高度な技術力には定評があり、国内外の大手企業を取引先としている優 良企業だった。 だがワンマンで鳴らした創業者が急逝、長男で40代のBさ んが二代目として事業を承継することになった。 問題点は、(1)会社組織で なく、個人事業のまま。(2)都市銀行の一つC銀行との一行取引。創業者の借 金が38億円、資産は18億円、大幅な債務超過。 依頼された吉田会計事務所 は、まず法人成りの手続きをしてBさんを代表取締役社長とする株式会社A社 とする。 B社長が引き継いだ資産を一気に会社に付け替えると、B社長には 譲渡益が出て、多額の所得税がB社長個人にかかってしまう。 そこで会社の 施設(本社、工場、社宅)をA社に賃貸し、賃貸料(年額1億8百万円)に相 当する賃貸保証金5億円を設定し、その分の借入金を会社がC銀行から借り、 B社長に払う形にした。 新会社がA社の事業に関わる債権債務を承継した差 額(新会社が個人から引き継げる借入金)は2億円しかなかった。 C銀行へ の残る借金は(38億円-5億円-2億円=31億円)。

 その後の5年間で、賃貸料で1億円、相続した定期預金の解約と有価証券の 売却で3億円、創業者から引き継ぎB社長が個人名義で所有していた工場の機 械や設備を少しずつ会社に売却した5億円を返済し、C銀行への残る借金は22 億円となった。 しかし、時あたかも金融再編成の時期に重なり、長年一行取 引を続けてきたメインバンクのC銀行が別の都市銀行に吸収合併され、新C銀 行となり、新支店長はB社長個人への貸付金22億円を10年で返済しろ、返済 できなければ本社、工場、社宅を売れと通告する。 吉田篤生さんは、地域経 済にとって重要なA社の事業ゆえ、通産省の出先の経済産業局とも相談し、地 元の信用金庫を中心として政府系金融機関を含めた三行の銀行団を結成する。  A社は、銀行団から8億円を借り、B社長個人から本社、工場、社宅を買い取 り、B社長はそれを新C銀行に返済、借金は14億円となる。 さらに、B社 長一族所有の土地などを売却して3億円、信用金庫が無担保でB社長に貸して くれた5億円、A社からの社長借入で2億円を調達し、計10億円を新C銀行 に返済、借金は4億円となる。 吉田篤生さんは、新C銀行に残る4億円の借 金を債権回収会社(サービサー)に譲渡することを要請、最終的に支店長はこ れを承諾、新C銀行に対するB社長の個人債務はゼロとなった。

 残る借金は、信用金庫5億円、A社2億円、債権回収会社4億円の計11億 円となった。                      (つづく)