中小企業の銀行との付き合い方 ― 2020/04/13 06:56
『慶應義塾大学大学院 SDM伝説の講義』第7章は「激変する時代に生き 残る金融機関」、日銀出身で金融高度化センター長などを務めた森俊彦さんの 「中小企業経営における金融財務戦略『進んでいる金融機関』の選択の仕方と 付き合い方」という講義だ。
吉田篤生さんの「マンダラチャート」、「経営」の8マスは、意志決定、技術 開発、マーケティング、製造、営業、人事労務、財務、総務。 「財務」を開 いて、時代背景、政治体制、経済動向、経営理念、顧客、資産総合力、従業員、 経営者の資質、だった。
吉田篤生さんは、日本の企業の99.7%は中小企業で、日本経済の屋台骨を支 えているが、その経営を継続していくのは容易ではない、時代の流れ、国の政 策、金融機関の姿勢などによって、経営危機に直面することもある、という。 長く会計事務所所長として顧問先をみてきて、バブル崩壊を機に金融機関の、 取引企業の事業を正しく評価し、経営を支援する能力が著しく落ちている。 担 保・保証ありきの融資ばかりを行うようになってしまったのがその一因と考え る。
森俊彦さんは、バブル崩壊で金融機関が巨額な不良債権を抱え、その処理の ため、1999年7月に金融監督庁(現金融庁)が「金融検査マニュアル」を公表、 金融機関は金融庁の顔色と検査マニュアルばかり見て仕事をし、本来、向き合 うべき事業者、つまり中小企業を見なくなってしまった、という。 担保・保 証ありきの融資が当り前で、借り手の事業性を見てお金を貸すという融資の原 理原則が後退してしまった。 この20年間、金融機関のそのビジネスモデル によって、中小企業は「証書貸付」による「約定弁済漬け」になっている。 金 融機関は長期間、企業のモニタリングをほとんどせず、事業性評価能力も途上 与信管理能力も失い、経営支援能力も著しく低下させてしまった。 森俊彦さ んは、金融機関が本来の金融仲介機能を発揮し、まず正常運転資金を短期継続 融資で対応すること、「証書貸付」をやめて「専用当座貸越」を活用することを 提案する。 金融機関は中小企業経営者との対話や現場の実地調査に基づいて 正常運転資金を把握し、それに対応した限度額、例えば「1億円」を設定し、 中小企業はその限度内であれば、資金の出し入れが自由になるので、資金繰り は安定、ライフラインとなり得るわけだ。
中小企業経営者はほとんどの場合、自らが経営する会社の債務を個人保証し ているため、家族との生活の拠点である自宅などを担保として差し出している。 会社が経営危機に瀕した場合には、自宅を売り払い債務を返済しなければなら ない。 債務が残れば自己破産するしか手がなくなる。 全てを失ってしまう のだ。 これが中小企業の現場で実際に起きていることだ。
私は父が昭和11(1936)年に始めた零細なガラス工場を兄と一緒に経営して いた。 創業から60年以上になっていたわけだが、100年以上の長寿を誇る 老舗企業と比べて、どこに欠点があったのだろうと、この本を、身につまされ、 反省しながら読むこととなった。 取引銀行は、かつて私が数年勤めたことの あるメインバンクと、他一行の都市銀行二行と、政府系金融機関だった。 バ ブル崩壊後の金融危機、貸し剥がし、貸し渋りの時期に、長く親密な関係を続 けて来たメインバンクの態度が変わって、手形割引が出来ないと言ってきた。 にっちもさっちもいかなくなり、平成12(2000)年一杯で窯の火を落し、整 理清算をすることにした。 工場の土地を売却し、借入金は全て返済、従業員 に退職金を支払い、手に技術のある従業員は同業の工場を紹介し雇ってもらっ た。 従業員にはいろいろと苦労をかけた。 兄と二人、自宅を売り払って債 務を返済するところまでは行かなかったから、いい時期にやめたと言われたの であった。
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