轟亭の小人閑居日記 　　　馬場紘二

　新型コロナウイルスの感染拡大で引き籠りをしている中へ、「笑って免疫力
アップ」「18歳と81歳の違い」という愉快なのを送ってくれた人がいる。
　◯道路を暴走するのが18歳 道路を逆走するのが81歳（以下8項） それを
高校同級のチェリスト赤松晋さんに転送したら、格調高く三好達治の詩を返し
てくれた。

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『百たびののち』　　「閉窓一盞」　　三好　達治

　憐れむべし糊口に穢れたれば
　一盞はまづわが腸わたにそそぐべし
　よき友やおほく地下に在り
　時に彼らを憶ふ
　また一盞をそそぐべし
　わが心つめたき石に似たれども
　世に憤りなきにしもあらず
　また一盞をそそぐべし
　霜消えて天晴る
　わが庭の破れし甕にこの朝来たりて水浴ぶは　
　黄金褐の小雨鶲
　小さき虹もたつならし
　あまの羽衣すがしきになほ水そそぐはよし
　また一盞をそそぐべし
　信あるかな爾
　十歳わが寒庭を訪ふを替えず
　われは東西南北の客
　流寓に疲れたれども
　一日汝によりて自ら支ふ
　如何にために又々一盞をそそがざらでやは
　
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私は「小雨鶲」「爾」が読めず、岩波文庫の『三好達治詩集』を見た。　「こ
さめびたき」、『広辞苑』の表記は小鮫鶲。　「爾」は「なんぢ」。　それで
『三好達治詩集』をパラパラやったら、「路上百句」が面白いので、赤松さん
に十句選んで返信した。

人ありて象の糞掃く春浅し
屈託げ屈託なげな春の象
小半とき河馬の見てゐる春の水
河馬日永ここに汝も戦犯か
黒猿の黒き夫婦の日向ぼこ
第一銀行夜は手相見の春灯し
菜の花や渡しに近き草野球
堤より低き家並みの鯉幟
あんぱんの葡萄の臍や春惜しむ
水に入るごとくに蚊帳をくぐりけり