春風亭昇也の「持参金」2020/05/26 07:07

 長い小人閑居日記の読者は、最近、落語がないなと思っておられるだろう。  硬軟のバランスを重視する私も、まことに残念なのだが、新型コロナウイルス の感染拡大の影響を受けて、3月から国立小劇場のTBS落語研究会が開催され ていない、5月29日も中止になった。 ただ、3月30日の第621回落語研究 会は、無観客で行われ、後日DVDが送られてきた。 演目と演者は、つぎの とおり。

  「持参金」    春風亭 昇也

  「居酒屋」    柳家 権之助

  「花見の仇討」  春風亭 一之輔

  「素人鰻」    柳家 小満ん

  「猫忠」     柳亭 市馬

 昇也、無観客の客席を見回して、ほぼ稽古だ、と言ってカメラを取り出し、 記念撮影だと客席を撮り、手を伸ばして自撮りもした。 やりたい放題、TBS 出禁になっても、すべっても、関係ない、と。 縁は異なものと申しまして、 師匠の昇太が結婚をした。 袖が、笑っている、と(横を向いて)確認した。  師匠がテレビで発表するまで、弟子は誰も知らなかった。 弟子はグループ LINEをやっているのだが、誰も知らない。 エッ師匠が結婚! 人間と? 弟 子はみんな蚊帳の外だった。 師匠が60で、おかみさんが40、20歳違う。

 帝国ホテルで盛大な披露宴をやって、お嫁さんがタカラジェンヌなので、受 付にはタカラジェンヌが並んでいる。 顔が、こんなに小さい。 新婦側はタ カラジェンヌがずらっといるのに、新郎側は私のようなポンコツ落語家ばかり。  ケーキ入刀となって、ファーストバイトという儀式がある。 新郎が新婦に一 口食べさせるのは、今後一生懸命働いて食べることは困らせません、という意 味がある。 新婦が新郎に食べさせるのは、美味しいご飯を手作りします、と いうこと。 私はすぐそばで見ていたんだけれど、若いカップルがやるからい い、新郎60で、新婦が40、普通それは介護、近い将来を思わせた(袖で、笑)。  どういう機会に、ご夫婦になるのか、わからない。

 開けるよ、寝込んでるのか。 前に都合した百円、いつでもいいって言って いたんだが、どうしても百円要ることになったんだ、今日中にどうにかしても らいたい、今晩中に取りに来るから。

 お早う、小間物屋の甚兵衛です、相談があって来た、所帯を持たないか。 お 前さん、いくつになった。 二十九。 相手は三十、姉さん女房、カネの草鞋 を履いても探せ、って言うぞ。 私は正直甚兵衛と言われている、器量は…、 よくない。 色は、真っ黒で、夜見ると、裏表がわからない、歯が見えた方が 表だ。 背は、高い(と、昇也は間違え、正直DVDはそのまま伝えた)、低い、 眉毛はゲジゲジ黒い線が一本、金壺眼(まなこ)で、首が太い、泥棒が締めよ うとして、あきらめた。 口は大きいから、物をこぼさない。 樽のように太 っている、鳩胸、でっちり、重心が低いので安定している。 足は大きい、十 六文甲高、幅広だ。 お茶、お花、一通りの習い事をしたけれど、何一つとし てものにならなかったが、飯は三人前食う。 町内の話は、何でも知っている。  それを一人で仕舞込んだりせずに、みんなで楽しもうという心の広い人だ。

 だが、たった一つ、傷がある。 えっ、今までのは傷じゃないんで。 お腹 に、八か月になる赤ん坊がいる。 美人は三日で飽きるという、器量のよくな いのは三月でも飽きない。 帰って下さい。 持参金の百円が無駄になる。 え っ、百円付くの、話が変わって来る。 百円、もらいます。 おかみさんも、 もらう。 お腹に赤ん坊がいてもいいのか。 私、引き受けますよ。

 嫁さんを連れてきた小間物屋の甚兵衛、仲人は宵の口と言い、高砂や、高砂 や、と言いながら帰りかける。 あれ、どうなってんの? (指で〇) 忘れ ちゃったんだ、明日の朝、必ず持って来るよ。 肝心のものを、持ってこない んだから。

 キョウダイ同様で、よろしく。 お腹に子じゃ酒飲めないだろうから寝ちゃ いましょう。

 すまねえな、昨日、百円取りに来ないで、出来たかい? 都合はついた、確 かな人が、ここに持ってきてくれることになってる。 じゃあ、待たせてもら うよ、今朝は掃除が行き届いているな。 百円どうするんだ、言わないと返さ ない。 去年の夏、旦那が寄合に出られなくてね、番頭さんも駄目だってんで、 お鉢が回って来たんだ。 飲めない酒をすすめられて、断わるわけにもいかず に飲んで、表に出ると、くるくる回っている。 何とか店に帰って、もどした りしていると、勝手元の女中でお鍋、知っているかい、人三化七だが、気立て はいい。 いろいろ介抱してくれて、つい、ということになった。 一度にし ておけばよかったんだが、ずるずるべったり、言われた時には、八か月の子が できていた。 小間物屋の甚兵衛さんに相談したら、どこかの間抜けがもらっ てくれるってんだ。 昨夜(ゆんべ)、その間抜けが見つかった。

 世の中、狭いな、昨夜、俺、所帯を持ったんだ。 誰の世話だ? 小間物屋 の甚兵衛さん。 ちょっと、待ってくれ、お前のかみさん……、お鍋もらった のか、八か月だよ。 お前さんのタネだということが分かれば、安心だ、いざ という時は、親子三人、お前さんのところへ頼って行く。

 あのお金は、甚兵衛さんが持って来る。 ちょっと、待てよ、その手拭いを 貸してくれ。 手拭いを百円の金だとすると、甚兵衛さんがお前に渡して、お 前が私に渡す、ぐるっと一回りして…。 昔の人はうまいことを言ったね、金 は天下の回り物だって。