「石州神楽」の神がかりと託宣2020/06/09 06:49

 「石見神楽」に残されている、神がかりと託宣の儀式が、よく話題になる。  託宣とは「神に祈って受けたおつげ。神託。」である。 そこで、昨日書いたこ との理解のために、『日本大百科全書(ニッポニカ)』の「大元神楽」を引いて おく。

 「おおもとかぐら。島根県邑智(おおち)郡一体と江津(ごうつ)市、浜田 市の一部で大元神の式年祭(5年または7年、あるいは13年目ごと)に行われ る神楽。出雲(いずも)流神楽の一つで、大元舞ともいわれる。祭場は今日で は神社の拝殿に多く設けられ、東方の柱を本山(もとやま)、西方の柱を端山(は やま)としてそれぞれの柱に俵を結び付け、ここに集落の祖霊神的性格をもつ 大元神ほか諸神を勧請(かんじょう)し、中央につるした天蓋(てんがい)の 下で神楽が行われる。この神楽はもと神職のみの執行であったが、明治以降は 神事および神事的な採物舞(とりものまい)を神職が受け持ち、演劇的要素を もつ神能(しんのう)の演目を各集落の舞手が担う。「御綱(みつな)祭」の段 に至ると、藁蛇(わらへび)を通して神霊が託太夫(たくだゆう)の体に憑依 (ひょうい)し失神状態に陥った託太夫が神託を発するという、今日では数少 なくなった神がかり、託宣の形態がみられ、このような古風を残している点に 大元神楽の特色がある。国の重要文化財に指定され、2004年(平成16)には 江津市に大元神楽伝承館が開館した。[高山 茂]」

 そして、本日の題を「石州神楽」としたことについて、改めて「等々力短信」 の「俵元昭さんと「石州神楽」研究賞創設」を引いておきたい。

  俵元昭さんと「石州神楽」研究賞創設<等々力短信 第1103号 2018.1.25.>

  「等々力短信」を毎月お送りしている俵元昭さんから、年賀状に代るお手紙 と、新聞のコピーを頂いた。 俵さんは、福澤諭吉協会で知遇を得た大先輩で、 1929年島根県浜田市生れの88歳、著書共著に『港区史』『江戸図の歴史』『東 京百年史第四巻(大正篇)』『江戸情報地図』などがある歴史研究家。 『三田 評論』『塾』にも、「抵抗の気脈」「慶應風土記」「義塾の先人たち」などを連載 された。 私も短信で、ご著書『半死半生語集』(学芸社)、『素顔の久保田万太 郎』(学生社)、『江戸の地図屋さん』(吉川弘文館)を紹介させて頂いたことが ある(675号、722号、723号、1002号)。

 1956年に慶應義塾大学文学部史学科を卒業した俵元昭さんが、民俗学の池田 弥三郎教授に師事して書いた卒論が「石見神楽舞の問題点」だった。 故郷の 島根県西部には浜田界隈から普及した石見神楽、その双生児で江津市内に伝え られた重要無形民俗文化財の大元神楽がある。 今の石見神楽は、明治の神道 国教化以来、神職が神楽舞を禁じられて、浜田浦大元神社の田中清美らから近 郊農民に伝えられ、氏子の望む露店同様に、祭りに参加する形で、国教神道に 反して神楽を残した。 この穏やかな石見的抵抗で、人気の蛇舞や不可解な鍾 馗を発明継承し、増殖した各社中が共同交代で上演する常設社殿を設け、海外 からも招かれ、リクリェーション行事や観光資源的発展を続けている。 大元 神楽も戦後、牛尾三千夫宮司によって発見され、明治の神道国教化以来、官憲 に秘して続けた、神がかりによって神のお告げを聞く「託宣」など古い儀式を 残した貴重な神楽だった。 俵さんはこれらを、山陰の山陰たる石見の風土に して初めて成立した、内的潜行と外的発揚の正反対の存続に成功したものだと する。 自発的民衆行動だった両神楽は、併せて「石州神楽」とも唱えるべき 神事芸能なのだ、と指摘している。

 俵家はかつて幕末には浜田城下の大年寄として、家系を350年つないできた そうだ。 米寿に達して、故郷を想起した俵元昭さんだが、もはや自身で研究 を進めることは叶わなくなったので、家郷の人たちに期待することにしたとい う。 2017年12月20日付『山陰中央新報』は一面で、「大元・石見神楽 研 究賞創設」「郷土研究懇 浜田出身者の寄付活用」と報じた。 神楽の一層の発 展のためには、価値を裏付ける学術的なアプローチが必要だという、俵さんの 私財を投じての賞創設の提案を、小学校時代の同級生、岩町功石見郷土研究懇 話会会長(88)が受けて、話がまとまった。 募集対象は、聞き書き、自身の 体験記、探訪記、観察記録、神事文献文書、お囃子・伴奏・芸能的研究等、種 類は問わない。 3年に1度で、当面10回程度の継続を想定、俵さんからの寄 付は数百万円程度の見込みだとある。 初回は2018年7月末〆切。

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