「藍は新月に仕込み、満月に染め始める」2020/06/10 06:49

 5月31日放送の「日曜美術館」「アートシーン特別編」、「アーティストのア トリエより―染織家志村ふくみ」が素晴らしかった。 2014年6月29日放送 の「日曜美術館」を再構成し、現在のウィズコロナの社会に対する志村ふくみ さんのメッセージも伝えていた。

 俳句を詠むことで、まがりなりにも旧暦を意識することがある私には、藍染 のところで、「藍は新月に仕込み、満月に染め始める」というのが、強く印象に 残った。 十月、藍を仕込む。 藍の葉を発酵させた蒅(すくも)、灰汁(あく)、 酒、石灰を、地下の藍瓶(がめ)に注ぐ。 仕込み終ると、みんなで柏手を打 って祈る。 発酵に、二週間かかる。 ある時、志村ふくみさんたちは、月の 満ち欠けに合わせて作業を進めると、上質の染料が出来、藍が美しく染まるこ とに気付いた。 染色が自然と分かちがたい営みの中にあることを確信した。  「藍は新月に仕込み、満月に染め始める」。

 仕込みから十五日、藍の状態を見る。 志村ふくみさんは藍瓶に指を入れ、 舐める。 「ピリッとしたような、甘い感じがいい」という。 昔は瓶に首を 突っ込んで、舌で舐めた。 だからベロメーター、と笑う。 よく出来た色が 「染めてよ」、「染めて下さい」って、言ってるようなもの。

 糸を染める。 藍瓶に浸し、最初に引き上げた時の、糸の色を「奇跡の色」 と呼ぶ。 一瞬、緑、それがパッと消えて、青になっていく。 「誰が仕組ん だことでもない、自然が瞬間に私たちに見せてくれる幻なんです、それが不思 議。 この謎は、永遠に解けないかと思う。 不思議ですよ、命じゃないです かね。 色に命があることを教えてくれたのは藍。 そういうものがなかった ら、色は色だ。 でも、私たちは、色は色でないと思っている、ひょっとして、 色は色ではないんじゃないかという思いで色を染めている、色を出している。」

 志村ふくみさんは、染色にかける思いを、「一色一生」という言葉で表わす。  命宿る色に生涯を捧げる、染織家・志村ふくみさんの誓いだ。

 今年、95歳になる志村ふくみさん、新型コロナウィルス感染症の拡大に、草 木染のマスクをつくっているという。 こんなメッセージを寄せた。

 「この厳しい時代に、人間が強く求めるもの、その究極は、美しいものだと 思います。 悲しいこと、今の苦しいことを含めての、美しさ。 本来、人間 は素朴で、そういう美しいものをひたすら求めてきました。 知識なんかじゃ ない。 救いになるものは、美ですよ。」

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック