「実学」(サイエンス)統計学で社会を考察する2020/06/13 07:02

 小尾恵一郎先生は、我々5期のゼミの頃には、『文明論之概略』について話さ れたことはなかったと思うが、少し後のゼミでは合宿などで、さかんに『文明 論之概略』を取り上げられたといつもOB会の話題になっていた。 我々の頃 は、 経済学の本より前に、まず畑中武夫さんの『宇宙と星』(岩波新書・1956 年)を読めと言われた。 自然科学も社会科学も、同じサイエンスだから、天 文学のクロスセクションとタイムシリーズというデータの分析方法が、経済学 にも使えるというのだった。 1993(平成5)年1月19日の最終講義でも、 塾祖福沢が『文明論之概略』で、自然法則と社会法則を区別せず、ジェームズ・ ワットとアダム・スミスの業績を並べて書いていることに、触れておられた。

 『三田評論』6月号の特集「福澤諭吉と統計学」の座談会「150年のスパン で「統計学」を見る」は、まことに興味深いが、そのあたりにふれた発言もあ る。

 大久保健晴慶應義塾大学法学部教授(東洋政治思想史・比較政治思想史) …福澤が『文明論之概略』で取り組んだバックルの『英国文明史』は、文明史 の方法論としてケトレー統計学を導入しているが、ケトレーはもともと天文学 を研究し、そこから統計学に進んだ。 福澤が学問的基礎とした江戸時代の蘭 学も、宇宙の法則をめぐる天文学の分厚い伝統と蓄積を有していた。 「天を 測る」天文学から「人間社会を測る」統計学へ。 福澤の統計的営為は、近世 蘭学の文化的鉱脈の延長線上に位置づけることも可能ではないか。

 馬場国博慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部教諭(数理統計学・データサイエ ンス教育)…福澤は「実学」という漢字に「サイヤンス」とフリガナを振って いる(「慶應義塾紀事」)が、社会科学であっても科学的にものを見るというの が福澤の実学であって、ではどうしたら科学的に見ることができるのかといっ た時に、その一つの大きな道具が統計学だったのではないか。 福澤は統計学 を知ったがために、どんな分野においても科学的にものを見ることができると いうことに気付き、実学の精神につながっていったのではないか。

 大久保健晴教授…福澤の『文明論之概略』は、一方でバックルが用いる統計 学的手法を高く評価しながら、同時にバックルが唱えるオリエンタリズムに裏 打ちされた自然決定論的かつ運命論的なアジア停滞論を乗り越え、独自の文明 化構想を導き出すという、極めて困難な思想課題に挑んだ書物と言える。

 馬場国博教諭…統計教育という点では、内閣府の「AI戦略2019」は2025 年に文理を問わず、すべての大学生にデータサイエンスの標準カリキュラムを 身に付けさせることを目標にしている。 これからの時代は、EBPM (Evidence-based Policy Making、エビデンス(証拠)に基づく政策立案)、 データに基づいた、証拠に基づいた議論がどんな分野にも必要だ。 また、ビ ッグデータの中で、間違った結論に導こうと思えばできてしまう可能性もある わけだけれど、それをきちんと見抜く力と、正しくものごとを読み解く力が必 要になる。 これは科学的なものの見方という点で、福澤に通じるところがあ ると思う。

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