家族主義的経営に道はないのか2020/07/01 07:04

 清宮政宏教授の「福沢山脈を引き継ぐ経営者たち」を読んで、当然、4月の「等々力短信」に「武藤山治の先見性」を書いたことを思い出した。 そこでは、武藤山治の鐘紡での革新的経営について、「生産会社には、生産、販売、労務の三要素があるが、一番力を入れたのが労務、人間尊重と家族主義的経営だ。 職工の優遇、福利厚生施設の充実、たとえば学校、託児所、娯楽施設をつくり、提案制度、社内報も日本で最初に始めた。 生産は、最新鋭の機械を金に糸目をつけず導入、テーラーシステムを取り入れ工場管理を徹底し、高品質の糸を紡出した。 販売では、アメリカ仕込みの宣伝を採用する。」と書いた。

 その武藤山治の人間尊重と家族主義的経営にふれている時、私自身の経験を思い出していた。 私はもう二タ昔も前、父の創業した零細なガラス工場を父や兄と経営していたのだが、戦後の集団就職で上京した中卒を職人に育てる家族的経営をモットーにしていた。 職工の優遇、福利厚生施設の充実、提案制度、社内報などにも、心を配っていた。 高度経済成長期に、効率や能率、生産性を重視する経営ばかりが持てはやされるなかで、人間尊重と家族主義的な日本的経営、小粒でも情と味のある工場にも、生きる道があるのではないか、という思いがあった。 当時、参考にしたのがソニー厚木工場での実践、小林茂著『創造的経営―その実践的探究』(マネジメントセンター出版局・1968年)だった。

 中小企業の銀行との付き合い方<小人閑居日記 2020.4.13.>で、少しふれたように、父の死後、家族的温情的な「いいわ、いいわ」の経営を続けていたこともあって、2000年直前の金融危機に、銀行の厳しい姿勢と貸し剥がしに直面し、にっちもさっちもいかなくなって、閉じることになった。 それでも工場の土地を処分し、借入金は完済、従業員には退職金も支払ったのであったが…。

 というわけで、日経新聞を読まなくなって二タ昔にもなる。 コロナ騒ぎで、「解雇」と合わせて「雇い止め」という言葉を聞く。 「雇い止め」を知らなかった。 有期で雇われていた人が、契約期間満了時に再契約されないことだそうだ。 非正規雇用というのが、爆発的に増えたのも金融危機以後のことである。 経営の形態も大きく変わっているのだ。 しかし、コロナ後の変化する世界に、もしかしたら、かつての人間尊重と家族主義的な日本的経営のような道もあるのではないか、などと思うのである。

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