春風亭正太郎の「権兵衛狸」2020/07/18 07:04

 てなわけで、6月23日の第624回落語研究会のDVDを見る。 プログラムは、次の通り。

「権兵衛狸」    春風亭 正太郎

「壺算」      三遊亭 萬橘

「青菜」      柳亭 市馬

「夏泥」      柳家 小里ん

「らくだ」     春風亭 一之輔

 と、いうわけで、無観客と、正太郎は始めた。 こんな大きな所でやる必要があるのか、寂しい、孤独感がある。 地方公演も一切ない。 旅は有難い、いろいろなことがある。 長野の仕事が終わり、時間があったのでネットを探して、日帰り温泉に行った。 すごい山の中、老舗の旅館、営業しているのか、していないのか分からない。 電灯がジーパチジーパチいってる、磨りガラスの玄関、ガタピシいう引き戸を開けて、昭和の旅館、赤いフェルトのカーペットに緑色のスリッパ、下駄箱に動物の剥製が並んでいる。 声をかけると、主人が出てきた、お婆さん、亡くなった志村けんさんのひとみ婆さんのような、頭をお団子にして割烹着。 日帰り温泉、300円だと言う、安い、今時。 風呂は突き当りを右に行く、左には決して行かないように、と。 廊下は天然の鴬張り、ステンレスの流しがあって、蛇口からポタンポタンと音がする。 なんちゃら商店と入った古びた鏡、自分じゃない人が映りそうで、見ないようにする。 突き当り、右が真っ暗で、左に暖簾、引き戸から明りが洩れている。  怖い! お婆さんが、言い間違えたんだろうと、左に行こうとすると、後ろにお婆さんがいて、駄目! 左には決して行かないようにと言ったでしょ、と言う。 右が風呂で、左がお婆さんの居住スペースだった。 風呂はとてもよかった。 ロマンがあって、レトロで…。 機会があったので、もう一度、行こうと思ったら、インターネットにぜんぜん出て来ない、廃業したとも出ていない、あの時は、狸か何かに騙されたのか。

 とある村はずれに、権兵衛の髪結い床があって、若い者が集まる。 佐吾十も、太十どんも、そろそろ帰ったらどうだ。 権兵衛は後片づけをして、戸締りをし、数年前におかみさんを亡くし、独り者、床に入って、トロトロする。 「ゴンベエ!」「ゴンベエ!」と、戸を叩く。 誰だ、今、開けてやる。 なんだ、誰もいねえ。 寝てしまう。 明くる晩も、床に入って、トロトロすると、「ゴンベエ!」「ゴンベエ!」と、戸を叩く。 今、開けてやる。 また、誰もいねえ、お月様が暈(カサ)かぶっている、裏山の狸が化かしやがったな、裏山に向かって叱言を言って、寝る。

 明くる晩も、「ゴンベエ!」「ゴンベエ!」 返事をしないで、戸に手をかけて待っていた。 狸は、尻尾でなく、頭の後ろで戸を叩く。 これをわれわれの方で「深川叩き」と言う。 「コウトウブ深川」(ご覧の方、DVDを止めないように) (サッと戸を開ける)転がって、来やがった、ぐるぐるにふん縛ると、梁にぶら下げた。 こんな悪さをしていいか、どうか、一晩、そこで考えろ。

 からすカア、佐吾十でねえか、珍しく早いな。 おはようございます、とっさまの用事で隣村へ、寝ていたら、火吹竹でケツを吹かれて、起きてきた。 裏の川でツラ洗って来い。 茶を淹れた、一杯飲んでけ。 とっつぁま、掃除ぶたないのか、えかくススが落ちてる。 頭の上を見ろ。 アッ、何だこれ? 狸だ。 えかくでかいな。 この狸だ、去年の春先、いっぺん化かされた。 小塚ッ原の菜の花畑で、満月だった、お月様が二つ出てた。 どっちが本物かわかる、手を叩くと舌出す、と言って、手を叩いたら、一つが舌出したんで、逃げてきた。 狸汁やるからって、みんな呼ぼう。 そんな殺生は出来ない、今日は婆さんの命日だ、叱言言って逃がす。 狸の大事な所を叩いて、皮をはいで、狸汁にすべえ、皮は俺がもらう。 駄目だ、早く出かけなせえ。

 悪さぶったで、ただでは逃がさぬ。 お前は、吾の名前を知ってるぐらいだ、吾の商売も知っているだろ。 お前の頭、刈ってやんべえ。 マナコつぶれ、頭寒足熱という、頭冷やしておかな、いかん。 悪さしたくなったら、頭に手を当てて、考えるんだ。 チョンチョン。 狸が虎刈りになってもいかんからな。 チョンチョン。 悪さぶったら、頭丸めて、詫び入れるんだ。 前座さん、みんなやってる。 正太郎も、いっぺんやった。

 狸を逃がして、婆さんの命日にいいことをしたと、戸締りをして、床に入る。 トロトロとすると、「ゴンベさん!」「ゴンベさん!」、「ゴンちゃん!」 なんだ、お前、何しに来た? 親方、ヒゲもやっておくれ。