柳家小里んの「夏泥」後半2020/07/24 06:58

 働けばいいだろう。 道具箱を質入れした。 俺みたいな奴は、死んだほうがいい、殺せ、殺せ、殺せ! 大きな声を出すな、真面目に働け、道具箱、いくらで質入れしたんだ。 5円。 あれば、仕事に行けるんだな。 なんだこれ、お前、俺にこれをくれんのか。 やっぱり、これ、返すや。 質入れしたのは一と月前、利息がある。 いくら? 2円だ。 金は大事に使え。 お前、いい奴だな、俺の身体、触ってみろ。 まっ裸か、これじゃ表に行けないな。 半纏に腹掛け、利息込みで2円だ、殺せ、殺せ、殺せ! これでもう、札はないよ。 三日三晩何も食べてない。 50銭だ、米買え。 俺、おかずっ食いなんだ。 これ、そっくりお前にやる(と、財布を振る)。 今、財布の底、つまんでいたろう。

 やっぱり、これ返えすよ。 職人、仕事に行って、すぐ手間をもらえるわけじゃない、これも返えすから、殺せ、殺せ、殺せ! そこまで、さとられちゃあ、しようがない(と、襟に縫い込んだ糸をほどいて)、襟から1円出す、根っ切り葉っ切りこれっきりだ。

 俺、帰るから。 どこ行くんだ。 お前に頼みがある、文なしで煙草喫う銭がない。 それ煙草入れだな、一服させてくれ。 一服したら煙草入れ返えすから、盗ったら、泥棒みたいになる。 お前、本当にいい奴だな、これ返えすから。 もう帰る。 左、行きな、右は交番がある。 静かにしてろ。 また、穴に落ちるなよ。 オイ、オイ、オイ! 大きな声、出すな。 お前に頼みがあるんだよ。 もう、一文もないよ。 今年の大晦日に、また来てくれ。