柳亭こみちの「堪忍袋」前半2020/08/18 07:00

 こみちは赤茶色の絽の着物、脇に稲妻のような模様の入った白い帯。 落語研究会、出演予定の4月の会がなくなりまして今回、無観客、何かいい感じ、ほんとうに誰もいない。 寄席にネタ帳があって、「ネタがつく」という、子供の噺、番頭の噺、女性の登場人物、お光が一日に三人とか、ネタがつかないようにする。 亭主が漫才師で、二人とも自粛で家にいる、家の中でもディスタンスが必要で、夫婦喧嘩になる。 炊飯器の中のご飯、私はこんもり派、漫才師はへばりつかしておく派、十日前に大喧嘩になった。 その前は、亭主と同じ会に出た、私が先の出番で不安定な暮らしだと言ったら、終演後、相方に失礼だろうってんで、喧嘩。 どっちが、子供を寝かしつけるかとか、小さなことで喧嘩になる。 心穏やかなほうがいいんでしょうが…。

 権助や、人間、腹を立てないように「堪忍」の二字が大事だ。 だな様、「かんにん」は四字ではないか。 「たえしのぶ」と書いて、二字だ。 「たえしのぶ」、五字になりました。 「堪忍」は二字なんだよ、馬鹿野郎! だな様、怒ってはならないだよ、おら、「かんにん」の四字を守るべえ。

 お光っちゃん、熊さん、何てひどい喧嘩をするんだ。 のっけから「出てけ」なんて、最後の言葉だろう。 お光っちゃんも、出てきゃいいんだろって。 出てかなきゃあ、蹴殺してやる。 向う脛、喰らいついても、出て行くよ。 なかなか言えない啖呵だ。 有難うございます。 褒めてないんだよ。 喰らいついたの、放しなさい。 お光っちゃん、歯も強いね。 有難うございます。

 熊さんに付き合ってもらって、木場へ行こうと寄ったら、この喧嘩だ。 隣で聞いたら、今朝から三度目だそうじゃないか。 五度目です。 わかっているよ、あるべきものがないからだろ、円満、円いもの、お金がないからだ。 お光っちゃんが愚痴を言う、熊さんは腹が立って仕事が捗らない。

 仏頂面をしていても、福の神は寄り付かない。 いつも笑い顔で、巨万の富を築いた人がいる。 この人を料亭に招待して、満座の中で、ないことないこと言って、囃し立てて、赤っ恥をかかせた。 ニコニコしていたが、中座して帰った。 家で、女中や下男に当たったりしない、腹の立つことはみんな、甕(かめ)の中に吐き出す。 友達が、先ほどは失礼しました、とやって来る。 酒、肴を出す。 あの人は、腹の大きな人物だ。 他人に何を言われても、腹を立てない、と評判になって、下からは押し上げ、上からは引き上げられ、巨万の富を築いた。

 ここには甕がない、お光っちゃん、針を持てるだろう。 何百本でも。 縫物だ。 手拭でも何でもいい、袋をつくるんだ。 紐をつけて、袋の緒にする。 堪忍袋だ。 腹の立つことは何でも、堪忍袋の中にワッと吐き出し、緒を結んで、笑う。 無理にでも、笑う。 それを半月、ひと月やってれば、笑う門には福来るだよ。 後は、うまいことやりなさい、木場は明日にする。 じゃあ。

 早く、閉めな。 足で閉めやがって。 早く、袋をこしらえろ。 長屋のみんな、お前さんのこと、何て言ってるか知ってんの、「楽隊ヅラ」、のべつトンガラガッタ、トンガラガッタ、トンガラガッタ。 鈴木の旦那が止めに入ったからだ、そうじゃなきゃあ、おん出してる。 はばかり様、伊勢屋に奉公していた頃、お前さん出入りしてて、人の顔見ればニヤニヤして、弁当も独り者だからおまんまに梅干ぐらい、気の毒だと思ったから、鮭の半分、煮物の残りをやって、情かけた。 (袋を縫いながら)日暮れ、ちょっとこっちへおいでって、蔵の裏の壁にドン。 お光の「み」は、魅惑の「み」とか、お光の「つ」はつれないの「つ」とか言って。 早く、袋をこしらえろ。 ほら! 放り出しやがった。

 (袋の中へ)やい、亭主を何だと思ってるんだ、このスベタアマ! ワッハッハ。 亭主らしいこと、したことあんのか、このスケベヤロー! イッヒッヒ。 博打打って、何が悪い、焼き餅焼くツラか、豆大福の三日干しがー! ハッハッハ。 こっちに貸しな、小皺気にしてんのに、私が買ってきた椿油、半分こぼしたのは誰だ、畳からこうやって(顔につける)。 一緒になった時、欲しい物は何でも買ってやるって言ったのに、何も買ってくれない、たまに買った饅頭も漉し餡、私好きなの粒餡です。 たまには便所の紙でも買って来い、このしみったれ野郎! イッヒッヒ。

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