三笑亭夢丸の「次の御用日」前半2020/08/22 07:00

 仲入後、緞帳が上がって、ニコヤカに夢丸登場。 無観客でも、休憩15分、ちゃんと取るんです。 教わった師匠に言われた、この噺は難しい、前半でお客さんを引き込み、後半にお客さんを乗せられるかどうかが勝負で、乗せられないと惨め。 賭けのようなもので、落語家人生を賭しまして申し上げます。 いきなりお客さんがいない、敗戦濃厚な状態で始めるわけで、一生懸命おしゃべりいたします。

 夏の噺、真夏の噺です。 毎年、夏は大阪に呼ばれて、道楽亭というところで、駅は動物園前、信号を待っておりましたら、たまたまでしょうが、前にブリーフ一丁のおじさんがいて、私は着物、目立つんでしょう、目が合った途端、目がロックオン、怒鳴りつける。 青信号になった瞬間、「お前、面白い恰好しよるな」。 お前に言われたくない、お前がチャンピオンだと思った。 今、裸は減りましたが、昔はいたもので。

 四谷伝馬町一丁目の堅気屋佐兵衛さんという大店、夏の昼下がり。 おーい、貞吉はいるか、何してる。 おまんま食べてます。 なぜ? 生きるために。 そういうことじゃない。 ほかの小僧はみな食べ終わってるのに、なんでお前は食べてるんだ。 旦那が加賀屋さんにお使いに行けと……、帰って来て、食べてます、当たり前に。 みんなが一緒に食べ終わりたかったら、みんなで待っていて下さい。 貞吉、帰って来たか、よく帰って来た、ご苦労さん、じゃあ一緒に食べよう、と。 黙って、食べなさい。 おかず、ネギとお芋なんですね、大好物です、有難うございます。 嫌なお礼の言い方だな、芋、残したのか。 お竹どんが、あたいに、お太鼓の所をくれたんで。 このウチは、おやつが出ない、旦那がケチだから。 おやつの代わりに残してる、小僧の涙ぐましい知恵で。 みっともないから、食べなさい。 モグモグモグ、何で急がせるんです。 用事がある。 お金使わないで、使っても減らないから小僧を使う、小僧使いの荒い、金使いの細かいウチだ。 行って来い。 娘の糸のお供だ。 お供なら、吉どんでも、竹どんでもいいでしょう。 お前がいいと、言うんだ。 旦那、あたいも、まんざらじゃないと、お伝え下さい。 何を勘違いしてる、お前が一番、気を使わなくていいと言うんだ。 食べてんのに、なあ。 まだ十三膳しか、食べてない。 食べ過ぎだ。

 お嬢さん、ご指名の貞吉です。 番頭さん、お嬢さんのお供で、縫物屋まで行ってきます。 気を付けて行け。 気を付けて行くから、お供がいる、番頭さんは、言葉に重複がある。 (番頭に、頭を叩かれる) お嬢さん、番頭さんにはいつも叩かれるんです。 お前がおしゃべりだからでしょ。 黙って、歩きなさい。 聞きましたよ、ご近所の方が、お嬢さんはきれいになった、いい女になったって。 いい女になったんですか。 知りません。 お年頃だから、お嫁に行くのだろうか、それともお婿さんをお取りになるのだろうかって、言ってますが、どうなさるんで。 知りません。 想われ人か、想い人が、いるんですか、誰? 知らない、帰ったら、お母さんに言い付けますよ。 まだまだ言い草が子供やな。 お前が子供だよ。