デモクラシーはどうすれば戦争を止められるか2020/11/06 07:04

 坂野潤治さんは、書く。 「一方で、1937(昭和12)年6月までの日本で、デモクラシー勢力が躍進しつづけたこと。これは歴史的事実です。他方で、7月の日中戦争開始以後デモクラシー勢力が声をひそめたこと。これもまた歴史的事実です。当時の総合雑誌の論調の急変を見れば、このことは明らかです。」

 そうだとすれば、デモクラシーの頂点で日中戦争が勃発し、その戦争がデモクラシーを窒息させたことになる。 坂野潤治さんは、ここ20年近く、この分かったようでわからない話を消化しきれなかったという。 軍部の独裁政権がデモクラシーを鎮圧した後で戦争が勃発したわけではないのだ。 それでもデモクラシーは戦争の勃発を防げなかった。 そして、勃発した戦争の方はデモクラシーを窒息させることができたのだ。 この堂々めぐりから、なかなか抜け出すことはできなかった。

 しかし、答えは意外と簡単だった。 第一に、戦争が起こらない限り、デモクラシーを鎮圧することはできない。 第二に、一旦戦争が起こってしまえば、戦争が終わるまで、デモクラシーには出番がない。 この二つのことを前提にすれば、問題は、デモクラシーが戦争を止めるにはどうしたらいいのか、という一点に絞られる。

 この本のいろいろの箇所で、この問いに答えてきた。 それをひと言に要約すれば、デモクラシー勢力が政権についていれば、戦争を止めることができる、ということである。 男子普通選挙制の下で有権者がデモクラシー勢力を衆議院に送り、その勢力に支えられた進歩的政党政治家、もしくはそれに準ずる政治家が首相の地位についていれば、デモクラシーが戦争を抑え込み、それゆえにさらに発展するという好循環が生じる。 そうした好循環は、リベラルな政党内閣もしくは準政党内閣の下でしか生じない。 「政党内閣」に「リベラルな」という条件をつける理由は、原敬・高橋是清内閣の後にできた政友会内閣は、「帝国」を承認する立場を採ってきたからだ。

 一旦総力戦が始まってしまえば、デモクラシー勢力は弾圧されるか、沈黙させられるしかない。 1945年8月の敗戦で総力戦が終わった時、デモクラシーが復活したことは、よく知られている。