英書を翻訳する外山教授の友人生田氏〔?〕は誰?2020/11/15 08:05

 E・S・モース著石川欣一訳『日本その日その日』1(東洋文庫171・平凡社)の144頁~145頁に、二度目に江ノ島に行った時、「外山氏とその友人」がやってくる話が出てくる。 外山氏の友人というのは学者らしい人で、英語は一言も話さないが、実に正確に読み、かつ翻訳する。 彼は英語の著書をいろいろ日本語に訳した。 すでに翻訳した著書を列記したら、確かにアメリカ人を驚かすに十分だとして、こんな本が並んでいる。 スペンサーの『教育論』(これは非常に売れた)、ミルの『自由論』、バックルの『文明史』、トマス・ペインの『理論時代』の一部、バークの『新旧民権党』(すでに1万部売れた)。

 156頁には、「外山教授、彼の友人生田氏〔?〕」が出てきて、モースの部屋の石油洋燈(ランプ)を使い、外山教授は動物界の分析表を研究し、生田氏〔?〕はやりかけの仕事、即ち『月刊通俗科学雑誌』に出ている「古代人の世界観」の翻訳をしていた、とある。

 『月刊通俗科学雑誌』とは、私なども子供の頃から、その名を『リーダースダイジェスト』とともによく聞いていた月刊雑誌『ポピュラーサイエンス』ではないか。 『ポピュラーサイエンス』は、この5年前の1872(明治5)年にアメリカで創刊されていた。 だが経営などの変遷の末、ごく最近、2016年1月に月刊から隔月刊になり、2018年9月には季刊になっているそうだ。

 ミルの『自由論』、バックルの『文明史』といえば、福沢諭吉がミルやバックルの原書を読み込んで『文明論之概略』などに生かしている。 ジョン・スチュワート・ミルの『自由論』は、中村正直が1872(明治5)年に『自由之理』として翻訳出版したのが、初訳という。 スペンサーの『教育論』というのは、ハーバート・スペンサーだと思われるが、尺(せき)振八が3年後の1880(明治13)年4月に『斯氏教育論』として出版し、その中でsociologyを初めて「社会学」と訳したことが知られている。 トマス・ペインの『理論時代』というのは、理神論を主張した『理性の時代』The age of reasonだろう。 バークの『新旧民権党』というのは、エドモンド・バークだと思われ、同じ本かどうか分からないが4年後の1881(明治14)年に金子堅太郎が『政治論略』(忠愛社)を翻訳出版している。

 「外山教授の友人生田氏〔?〕」というのは、なかなかの人物だと思われるが、いったい誰なのだろうか?