留学中の長男一太郎への手紙とモース2020/11/23 06:23

 E・S・モースの名の出てくる福沢書簡は、『福澤諭吉書簡集』第5巻にも二通ある。 どちらも、アメリカ留学中の長男一太郎宛だ。 書簡番号1061 明治19(1886)年6月1日付は、福沢の長女さと(里)が嫁いだ中村貞吉の養父中村清行の死など近況を伝える手紙である。 5月1日付の一太郎の手紙を4日前に受け取り、送った印籠と目録が違っていたそうだが、これは捨次郎に送ったものと間違えたようだ。 実は、捨次郎の所へはモールス氏に送る(贈る)ための縮緬を一疋送るについて、印籠は一太郎に良い品を送ろうと思っていたのを、不行き届きで間違えたらしい、とある。 捨次郎は6月初旬、ポーキプシーに行くそうなので、その時、何もかも分かるはずだ。

 もう一通は、書簡番号1259 明治21(1888)年1月6日付、一太郎と弟捨次郎の留学も5年、この年の帰国予定を喜び、正月の遊戯など近況を伝えた手紙だ。 その中に11月下旬、捨次郎が桃介(福沢の養子、帰国後二女・房と結婚する約束で留学させてもらっていた)同道で、「セイレムのモールス氏」の家に行き、いろいろ面白い遊戯をしたと手紙をもらったという話が出てくる。 日本でも母(福沢の夫人お錦)の工夫で、福引を番号だけでやるのも殺風景だと、何か面白い趣向はないかと思いついたのは、品物を揃え、その品物に名前をつけるか、あるいは関連する事柄を考え出して、それに応じる品を見繕うことだった。 例えば、「常盤御前」という籤(くじ)を引けば、品物は「笠と綿」、綿は雪の代表で、常盤伏見の状況を表す。 お里、お房の案で、「太閤秀吉」は、「瓢箪と福草履」。 おっ母さんの案、「舌切り雀」は、「鋏と浅草海苔」。 「茂林寺」は、「湯沸かしと毛糸」。 その他いろいろ、昨5日婦人子供の集いでやり、なかなか面白かった。

 この手紙、その後に、こうある。 (捨次郎がその壮行会で演説し、)来日以来家を探していたナップ(ユニテリアンの牧師)が近日横浜に借家をすることになった。 今日ドクトル・シモンズに会ったが、シモンズも帝国大学教授のフェノロサの世話で、大学の近く本郷に住居を見つけたそうだ。 そんなことで、無理に当方で世話することもなくなった。 シモンズに言って、日本流の馳走をするつもりと案内したので、二、三日中に、愉快に一席催すことになった。