柳家小三治の『もひとつ ま・く・ら』2021/03/25 06:47

      『もひとつ ま・く・ら』<等々力短信 第904号 2001.6.25.>

 柳家小三治の『ま・く・ら』について三回にわたって書いてから三年、内緒の話だが、『もひとつ ま・く・ら』(講談社文庫)が出た。 癪だけれど、これがまた面白い。 小三治の噺の、どういうところが可笑しいのか、ちょっと研究してみよう。

 「女性の美しさってぇものもずいぶん変わりましたよ。 だいいち今はあれでしょ。 だいたいきれいになりましたよ(笑)。 だいたいきれいですから(笑)。 でございましょ」「昔は、美人てのがあって、あとそれ以外は全部ブスでございました(笑)。今、あまりブスっていう言い方はしませんね。 ちょっと変だなと思うと、うん、かわいいじゃない、なんて、それで済んじゃうんでしょう。 いい言葉ですな、かわいいってのはね。 チンコロだって何だって、みんなかわいいんですから(笑)。 それに昔と違いますのは何と言ってもお化粧でございます。 その人に合ったお化粧の仕方、これがみんなうまくなりましたよ。 油断も隙もありませんよ、本当に(笑)」

 (ルイ・ヴィトンとかグッチとかのお店に行列をつくって待っているのは、これがぜんぶニッポン人)「この様子を見るとね、たいがいだれでも「いやあね、ああいうの」なんて言うんですよ。 で、人がいなくなると、そおっと並んだりなんかするんです(笑)。 やることはみんなおんなじです。 ええ。 そうしちゃあね、ああいうカバンや何か買ってきて、ええ、何が面白いんですかねえ。 自分が引っ立つと思ってんですかね、あれ。 カバンのほうが引っ立ってんのを知らねえんですかね(笑)」

 「それ以外は全部ブス」「やることはみんなおんなじです」といった<断定>、「チンコロ」「カバンのほうが引っ立ってん」のような<意外性の面白さ>、「だいたいきれい」「油断も隙も」などの<言葉の選択>。 小三治は、あのマナコでにらんだ観察、だれもが思い当たる人間の心理を、緩々急、聴く者を引き込む、絶妙の間で語る。

 沼津の芸者屋の娘に「落語をやってください。 テレビであんなガチャガチャしたことをやってもらいたくないんです」といわれる「たちぎれ線香」のような「笑子の墓」に泣き、デジカメから入ったパソコンに振り回され、ずるずるカネを取られる「パソコンはバカだ!!」や、江戸前の鰻屋に日本の真南にある下に「ピン」の付く島国から来た女店員がいて、「キモスイ↑ツケマスカ↑?」と訊く「外人天国」には、思わず吹き出す。 電車で読むには、馬鹿かと思われる覚悟がいる。

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