ヴォーリズ夫人満喜子の女子修養会と、広岡浅子の夏季勉強会2021/05/31 07:10

 池澤夏樹さんの朝日新聞連載小説「また会う日まで」は、主人公秋吉利雄海軍中佐が調整役を務めたローソップ島での皆既日食観測も終わり、5月から「ベターハーフ」という益田ヨ子(よね)との再婚の話になっている。 信仰の師、牛島惣太郎牧師の娘で、一回り下の栄から見合いを勧める手紙が来た。 栄と東京女子大学の同級生、二つ上の32歳、福岡の名門の家柄の娘だが奔放、大阪のYWCAに勤めたクリスチャン、その縁でアメリカに渡って数年勉学したという。

 帝国ホテルで、栄と三人で会って、話をする。 大正14(1925)年3月に東京女子大学を卒業し、その先をどうするか、当時女の仕事と言えばまずは電話交換手、タイピストがあったかどうか、教会という後ろ楯があって、新渡戸稲造の東女(とんじょ)に学んだので英語ができた、そちらでなんとかならないかと思っていた時に、御殿場で女子修養会という会が開かれ、それに参加した。 提唱者はウィリアム・ヴォーリズさんの奥様の満喜子さん、十名ほどの女子をその別荘に集めて開かれた。 ウィリアム・ヴォーリズ氏は、伝道のために来日、建築家としての仕事が多く、メンソレータムという軟膏を売る会社を経営する事業家だが、伝道団体近江ミッションが背後にある。 満喜子さんは、(一柳)子爵の令嬢で、そういう人を娶るほどの社会的地位をヴォーリズ氏は日本で得ていたわけだ。

 その女子修養会参加の縁で、大阪のYWCAに行かないかという話が舞い込んだ。 「ヤング・ウィメンズ・クリスチャン・アソシエーション キリスト教女子青年会」、若い女たちが、女たちだけで協会を作り、社会改善や信仰の普及のために働く、発祥はイギリスで、世界中に支部がある。 その一つが大阪だった。 大阪YWCAは、益田ヨ子にとっては初めての社会、自分で働いて、同僚たちと力を合わせて使命を果たす、主に祈る、満ち足りた日々でした、とヨ子は話した。

 ここを読んで、私が思い出したのは、2015年下半期の朝ドラ『あさが来た』(波瑠主演)のモデル、広岡浅子のことだ。 京都の小石川三井家、三井高益の四女で、大阪の加島屋、広岡信五郎の嫁になり、炭鉱で加島屋を立て直し、銀行や大同生命、はたまた日本女子大学、本女(ぽんじょ)を創立した人物だ。 御殿場、二の岡の広岡家の別荘で、夏季勉強会を開き、20名ほどの女性が一週間ほど泊まり込みで勉強した。 ここから井上秀、小橋三四子、市川房枝、村岡花子らが出た。 村岡花子の2014年上半期の朝ドラ『花子とアン』でも確か、この御殿場の夏季勉強会の場面があった。

 ヴォーリズ夫人満喜子の女子修養会と、広岡浅子の夏季勉強会は、東女(とんじょ)と本女(ぽんじょ)の違いもあるが、ともに御殿場の別荘だ。 どういう、つながりがあるのだろうか。  広岡浅子が夏季勉強会を開いたのは、大正3(1914)年から亡くなる前年の大正7(1916)年までだそうだ。 「また会う日まで」の益田ヨ子が、ヴォーリズ夫人満喜子の女子修養会に参加したのは大正14(1925)年だから、ちょっと時期はずれている。 ところが、広岡浅子とウィリアム・ヴォーリズとは深い繋がりがあり、広岡浅子は一柳満喜子との結婚を後押しもしていた。 それはまた、明日。

小人閑居日記 2021年5月 INDEX2021/05/31 07:20

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