アヤノと、久兵衛の執事・伊地知の日記2022/03/19 07:15

 江上剛さんの『創世(はじまり)の日』、花浦久兵衛の三女綾乃がアメリカで、アヤノ・エリアス・ジョンソンというハーバード大学の日本政治経済史の名誉教授になっている。 綾乃は三女といっても、昭和9(1934)年にアメリカ大使館員ジョン・クルムスが恋に落ちた向島の芸者に産ませた子だった。 クルムスは帰国することになったがアメリカには妻がおり、大使が交流のあった花浦久兵衛に相談したところ、二つ返事で養育を引き受け、養女に迎え入れたのだった。 久兵衛と妻の静子は、綾乃を実の子と同様、否、それ以上に愛情を注いでくれ、何不自由なく育てられので、綾乃は本当の父母だと信じていたという。

 綾乃が育った花浦邸を管理している東京都公園協会の職員からメールが来て、旧花浦邸の地下通路で、執事として久兵衛に一生を捧げた伊地知海弥(いちじかいや)の日記が見つかったというのだ。 一冊だけだが、終戦の頃から久兵衛と伊地知がお屋敷を去る頃まで、頻繁に綾乃が登場し、読み方によっては綾乃のために残した、いや捨てられなかったと思えるという。

 アヤノは87歳だが、コロナ前には毎年8月、自分の研究のためもあって日本に帰国して、終戦記念日には久兵衛と静子が眠る、豊島区の染井霊園に隣接する花浦家の墓所を参拝することにしていた。 久兵衛に寄り添うように伊地知の墓もある。 東京オリンピックを控えた7月、ハーバード大学で日本文学を専攻している孫のシェリーが同行してくれて、アヤノは来日した。