『もう侵略主義は時代遅れである』犬養毅の演説2022/04/09 07:12

 夫のガンによる逝去で、妻が引き継いだ共著<小人閑居日記 2022.3.6.>に登場してもらった森川功さんが、剣道部の先輩に送ってもらったという、堀川恵子さんの司馬遼太郎賞受賞スピーチのコピーを送ってくれた。 「人はどう死ぬか、どう生ききるか」、犬養毅の生涯を描いた『狼の義 新 犬養木堂伝』林新、堀川恵子。 2020年2月14日の「菜の花忌」で話されたもので、掲載誌は同年3月24日発行の週刊朝日MOOK『司馬遼太郎と昭和』(朝日新聞出版)。 すばらしいスピーチなので、さわりを紹介したい。

 「今日は私一人で立っておりますが、もう一人の受賞者、林新がおります。」「林の人生は日吉の道場にありと言えるほど、長く剣道をやっておりました。剣道には『五行の構え』というのがあるそうですね。同級生からは、いつも林は上段の構えだったと聞いております。」「両手を振り上げ、胴もがら空き、喉も空いてしまう。相手を圧倒する気迫がなければできない構えであり、そこには守ると言う概念がない。本当に林の人生そのものだと思ったことがあります。」「そういう相手と夫婦になるのは大変なことでして、プライベートでは本当に優しい夫でしたが、こと仕事のことだと上段の構えになってしまう(笑)。いつも真っ向勝負で、妥協はいっさい許さない人でした。」

 「そんな夫が心底惚れ込んだのが犬養木堂でした。憲政史上もっとも難解な人物ではなかろうかと、そんな気がしています。/おそらく晩年の彼は自分の妻よりも木堂を愛していたのではないかな(笑)と実感するところです。」「NHKを退職し、本格的に執筆に入り、明治を終ったところで力尽き、逝ってしまいました。」「それを引き継ぐことになったわけですが、この本は、西南戦争から明治憲法の誕生、初めての議会、日清・日露を経て五・一五事件まで、まさに日本における立憲政治の歩みを描くという、本当に林らしい真っ向勝負の王道の物語でございます。」

 「さて何から手をつけていいやらと思ったのですが、やはり、これはもう資料を読むしかない。」「すでに林の命令で、国会図書館や憲政資料館に通い、親書や電報、新聞記事等の入手は私がやっていたので、目を通しておりました。そこに彼が残した約250冊の関連文献を読み、さらに自分が読まなくてはならないと気がついた約150冊を読みました。約1年間、ひたすら読むだけの生活をいたしました。」

 「実際に書き、いちばん血が燃えたぎるような思いになったのは、万年野党の党首だった犬養木堂が総理大臣になり、そして暗殺されるまでの半年間です。関東軍が主導し、満州国が建国されます。ところが犬養はそれを絶対に承認しないんですね。そんなことをすれば日本が破綻してしまう。そのため、非常に熾烈な軍部とのやり取りを半年間つづけるわけです。」

 「資料を読むと、本当に日が一日過ぎるごとに、犬養が孤立していく様が手にとるように感じられました。軍部はもちろん、宮中、メディアと、次から次へと犬養から去っていく。」

 「暗殺される2週間前、ラジオの演説で全国民に語りかける、その音源を林が入手しておりました。犬養はこう言っています。『もう侵略主義は時代遅れである』『我ら政友会が政権にあるあいだは絶対に戦争は行わない』」「犬養は立憲主義にもう一度立ち戻ろうと、演説で叫びます。私はこれを聴きながら、「本当の保守とはなにか」「真のリベラルってなんだろう」と改めて考えさせられました。」

 「そんな悲痛な演説の2週間後、犬養は暗殺されてしまいます。誰もそれに対して声を上げず、立ち上がらず、戦前の政党政治は五・一五事件を機に崩壊していきます。」                      (つづく)

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