小室正紀さんの「『時事新報』経済論を読む」講座2022/06/24 07:05

 6月16日から坂井達朗さんの「福澤書簡を原文で読む」講座のことを書いたが、福澤諭吉協会の公開講座が、もう一つ、5月18日に(一応の)最終回を迎えた。 2018年4月25日に開講した、小室正紀慶應義塾大学名誉教授の「『時事新報』経済論を読む : 明治15年~20年―『全集』未収録論説を含めて―」、コロナ禍による長い中断を含めて足掛け4年、22回の講義だった(私は、2019年5月22日の回だけ欠席)。

 小室正紀さんの開講の趣旨は、「明治15年に創刊された新聞『時事新報』は、慶應義塾とならび福澤諭吉が最も力を入れた事業であり、福澤は、この新聞の実質上の主筆として、多くの論説・社説を執筆しました。また、明治15年以降の福澤のほとんど全ての著作は、まず『時事新報』に発表されました。/この講義では、このような『時事新報』の論説・社説の中から特に経済に関係するものを紹介しながら、その面白さを味わい、同時に思想史上の意義を考えます。」というものだった。

 明治15年~20年は、福沢が『時事新報』の編集に最もコミットした時期だそうだ。 講義の副題「『全集』未収録論説を含めて」にもあるように、『福澤諭吉全集』に収められていない論説も多く取り上げられ、毎回、各論説の【主旨】【要約】と、注目すべき文章(引用)が、資料として配られた。 まとめてみたら、改めて貴重な資料だと感じた。 最終回、その資料の準備に膨大な時間がかかるので、以前協会の弘前旅行でご一緒した奥様が「好きネ」とおっしゃった、と聞いて、なるほどと思った。 未収録論説を合わせて読まないとわからないことが多いという、ご指摘が、納得できた講義だった。

 2018年4月25日、「序 『時事新報』と福澤諭吉」の、「本紙発兌之趣旨」明治15年3月1日の【主旨】を引いておく。 「世間から誤解されないよう、我輩の持論・精神をこの新聞を発兌して毎日報道する。本紙は、党派新聞ではなく政権を執るつもりはない。求めるものは、一身一家の独立から、それをおしひろめて国の独立に及ぼすことであり、その精神から是々非々で記し評論を下す。」

 『時事新報』論説の、無著名、福沢の著作かどうかの問題については、小室さんは、未収録論説も含めて読むことにより、誰が執筆したかにかかわらず、『時事新報』を貫く主張とその変化を傾向として把握することを狙った。 個々の論説・文言の意図は、その全般的主張・傾向の中で位置づけるとした。 明治15年~20年は、福沢が『時事新報』の主筆としての指導力を発揮した時期であり、小室さんは一貫して「福沢、『時事新報』は…」と、語ったのだった。