『スクラッチ』コロナ禍、中3の夏の物語2022/07/03 06:39

 ちょうど10年前、こんなことを書いていた。
歌代 朔・作『シーラカンスとぼくらの冒険』<小人閑居日記 2012. 1. 28.>
江國香織さんの《小さな童話》大賞<小人閑居日記 2012. 1. 29.>
シーラカンスと若気の至り<小人閑居日記 2012. 1. 30.>

 80歳を超えた今も年賀状のやり取りをしている品川区立延山小学校の同級生から、娘さんの第二作目の本『スクラッチ』(あかね書房)が送られてきた。 巻末の著者紹介に、「図書館司書、保育士として勤めながら、創作活動を続け、デビュー作『シーラカンスとぼくらの冒険』(あかね書房)で第41回児童文芸新人賞を受賞。その後愛媛県に移住。現在、小中学校で子どもたちの学校生活に関わりながら、作品を書き続けている」とある。 10年経っての二作目出版、その間この道一筋、前向きに続けられたご苦労が思われ、この上梓の喜び、いかばかりかと想像する。 父上が二日で読み切ったそうな『スクラッチ』、私もたちまち引き込まれて、二日と少しで読み切った。

 三年目に入ったコロナ禍、貴重な日々を送るべき感受性豊かな中学3年生は、どんな影響を受けているのだろうか。 オンライン授業で友達に会えず、先生のナマの講義も聴けない、給食も黙食、運動会も修学旅行も中止とかいった、報道に接するたびに、暗い気持になる。

 『スクラッチ』は、いなか町の中学3年生の夏の物語。 この町ではコロナ患者はほとんど出ていないのに、3年生になってすぐ、「コロナ対策で全国一斉休校」の非常事態になった。 あとで仲間になる健斗が言う、「成績トップ冷静画伯」千暁(かずあき)、「コートの猛獣向かうところ敵なしのエースアタッカー」鈴音、「成績優秀頭脳派セッター生徒会長」文菜の4人が主人公だ。 千暁と、事情があって寝るために来ている健斗の美術部は、市郡展こと「市郡こども美術展」が今年は審査なしで飾るだけ、二年連続特選の千暁はがっかりだ。 鈴音と文菜のバレー部は、中学生活の中で一番大切なイベント、「総体」市郡総合体育大会がなくなり、勝ち進めば県総体、全国という夢も閉ざされ、超最悪だ。

 「できない」「中止」「あきらめろ」を、彼らはどのようにして、ブレイクスルーするのか。