『忠臣蔵』「五段目」山崎街道 鉄砲渡し・二つ玉の場2022/11/27 07:33

 歌舞伎は久しぶりだった。 『仮名手本忠臣蔵』「五段目」は観たことがあるような気がしたが、「六段目」はぜんぜん覚えていなかった。 「五段目」山崎街道鉄砲渡しの場。 山崎街道二つ玉の場。 「二つ玉」は、強力な鉄砲のことだそうだ。

 [鉄砲渡しの場] 塩冶判官が高師直に刃傷に及んだ折、腰元おかる(市川笑也)との逢瀬のために、主君の側に駆け付けられなかった早野勘平(中村芝翫)は、自らを恥じ切腹しようとするが、おかるに説得され、山城国(現在の京都府)山崎のおかるの実家に身を寄せて猟師として暮らしている。 ある夜、勘平は猟で雨に打たれ、湿った火縄銃に火を借りようとして、偶然、提灯を下げて歩いてきた同じ家中の千崎弥五郎(中村歌昇)と出会う。 初めは盗賊かと疑われた弥五郎に、鉄砲を渡して、火縄に火をもらい、話をする。 仇討ちの一味に加えてほしいと願うが、金を用立てる必要があると伝えられ、調達を約束する。

 [二つ玉の場] 一方、勘平の窮状を案じ、身を売ってでも金を調達したいというおかるの心に感じ入った父・与市兵衛(中村吉三郎)は、勘平のために娘が祇園の一文字屋へ遊女に出る話をまとめ、半金の五十両が入った縞の財布を受け取って家路へ向かう途中、傍らの稲叢の陰で一休みする。 懐の縞の財布を確かめ、有難く押し頂いた途端、稲叢に隠れていた元塩冶家の家老斧九太夫の息子・斧定九郎(中村歌六)に財布を奪われ、刺し殺されてしまった。 定九郎が大金にほくそ笑んで、その場を去ろうとすると、猪が駆けて来て、そのあたりをコロコロと走り回る。

 やりすごしたその時、猪を狙った鉄砲の銃声が響き、定九郎が血を吐きながら絶命する。 そこに猪を追う勘平がやって来て、誤って人を撃ったことに気が付き、狼狽する。 薬を持たぬかと、懐を探り、件(くだん)の財布が手に触れる。 主君の仇討ちに加わりたい、そのためには金が要る、勘平は財布を盗って駆け出すのであった。

 そこで斧定九郎だが、小朝の落語「中村仲蔵」で、白塗りの顔、黒羽二重の紋付の裏を取ったのに、白献上の帯、刀は朱鞘の大小、びっしょり濡れて水が飛び、両袂をしぼる、と聴いていたので、中村歌六は地味、水をかぶって出て来た方がよかったと思った。 ちょっと、気の毒だった。